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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

「みんなちょっと落ち着いてよ。勝手に決めたことは悪かった。」

早瀬がざわめき始めた皆を宥める。しかしそれが逆効果だったのかリーダーっぽい奴が前に出て来る。


「そうだよ。何勝手に決めてんの。俺らはまだ認めてないんだからな。俺達は、お化け役やりたい、って自分で手挙げて集まってんの。それを急にお前ら役無し、ってのはないだろ。」

「いや、役無しにするつもりは…」

早瀬がすかさず口を挟むが、そいつは全く聞くつもりはないらしい。

「おんなじ事じゃん。結局はお化けは無くす訳だろ。何?テープの中の役者とかやらねえからな。大体さ、教室が狭いのは、委員会の時にちゃんとでかい教室勝ち取って来なかった早瀬のせいじゃねえの?」


こいつ………。そういうこと言うか普通。
じゃんけんなんだから仕方ねえだろ。んなの思ってても誰も言わねえし。

「清司(せいじ)。それは関係ないだろう。」

矢倉が言うと、清司、と呼ばれたそいつはぎゅっと唇を真一文に結んで黙り込む。

「それはある意味で俺のせいでもある。相沢がそう思ってるなら俺は謝るよ。悪かった。」

落ち着いた声で早瀬がそう言うと、黙って聞いていた他の奴らが「それは違う」「早瀬は悪くねえよ」と言い返す。

相沢、と呼ばれたそいつは立場が悪くなったためか顔をしかめてそっぽを向いている。

自分が発案者なのに、じっと黙っていて、早瀬が責められるのは何かおかしいと思った。ここはちゃんと俺が説明するべきだ。


「皆、ごめん。俺が発案したんだ。だから皆の役が無くなるのは俺のせいだ。」

急に話し出した俺に視線が突き刺さる。相沢にいたっては、睨むように俺を見ている。

「俺は案出しただけだから、これから皆の意見も取り入れて、改善していけばいい。だから、録音したテープを流そうってのは一つの意見なのであって……えっと、皆で決めていけばいいんじゃねえかな。」

人前で説明するのとかは得意じゃないし、言ってたら自分でもお前が言うなと思ってしまう。

「……そういうことだ。お前らは勝手にいきり立ってるが、これから皆で改善していこうってだけの話だ。」

矢倉のまとめたのか火に油を注いだのか解らない締め括りに早瀬が隣で小さく溜め息を吐く。

「…そっか、悪かったな。」
「俺らも教室行くわ。」
「そーだなー」
「なんつーか相沢恥ずかし」
「っぷ」

どうやら矢倉の一言に皆気が抜けたらしい。

一人熱くなっていた相沢は拳を握り締め、顔を真っ赤にしてぷるぷると震えている。

リーダー的存在なのに弄られキャラらしく、皆にからかわれている。

矢倉がさっさと被服室を出て行く。
俺も長居する用はないので教室に戻ろうと矢倉に続いて教室を出た。

早瀬を見ると、誰かと話していたので先に帰ることにする。

先程と同じく矢倉の背中を追うシチュエーションになった。

何だか同じクラスメートなのに、少しの距離を空けて気まずくなっているのが馬鹿らしくなって矢倉の横に並んで歩く。

矢倉はちら、と俺に視線を向けただけで何も言わなかった。

少しだけ気まずくなくなったその距離に俺はちょっと嬉しくなったのだった。
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