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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

「と、いうことで、金剛には案出すのだけ企画班に参加して貰って、基本は買い出し係りをして貰うことになったから。」

教壇に立った早瀬は、そうクラスメートに声を掛ける。

どうやら俺の出した案が良かったみたいで、俺は企画班と買い出し係りの両方をすることになった。

クラスメートから普段とは違う好意的な視線を受け、俺はむず痒いような気恥ずかしいような心地でじっと早瀬の隣に立っている。

「じゃあ作業再開。」

早瀬の掛け声とともにざわざわとクラスメート達は各々の班に戻る。
企画班の一人、柔らかい雰囲気の羽生(はにゅう)が近付いて来る。

「金剛くん。無理言ってごめんね。」

申し訳なさそうに眉を垂らす羽生に慌てて両手を振る。

「いや、全然。」

「でも俺もすごく良い案だと思ったからさ!頑張ろうね。」

ふわ、と羽生が笑うと、周りの空気が和んだような気がした。何だかその笑顔にどぎまぎしてしまう。

企画班の集まっている所に二人で近寄って行くと、企画班の全員が顔を上げて俺を見た。

今更ながら余所者の俺がここに参加していいのか、と申し訳なくなる。

「じゃあーみんな、金剛くんが参加してくれることになったから。」


「おー」と明るく迎え入れてくれる奴は少数で、やはりいきなりクラス行事に参加し出した俺に戸惑いを隠せない奴がほとんどみたいだ。

中には派手な見た目の俺をびびっている奴も結構居て、怯えた目でちらちらとこちらを窺われて、居心地が悪い。

ちら、と視線を上げると全員が一斉に視線を逸らした。溜め息を吐きそうになるのを我慢する。

そんな俺の横に立った羽生は俺の案を元に早速話を進めていく。

「録音は自分達でしなくちゃいけないから、機材については先生に何か使えない物はないか聞くとして、録音する内容の方を考えなくちゃね。後は、演出作りをどうするかだね。」

「出演するのは誰にする?」

班の一人の眼鏡を掛けた生真面目そうな奴が言う。

「やっぱりお化け役の人達かなあ?」

羽生が答える。

「お化け役、つったら被服室行ってるんじゃないか?衣装とか作るって張り切ってたみたいだし。」

班の内の誰か一人がそう言って、「忘れてた」とみんな顔を見合わせる。

慌てて羽生が早瀬を呼ぶ。

「どうした?」

「お化け役の人達に伝えてないんじゃない?」
「あー…」

早瀬はしまった、という顔をすると、同じく文化祭委員である矢倉にもそれを伝えに行く。


早瀬と矢倉が黒板前で話し合っている。
丁度早瀬が俺に背を向け、矢倉がこちらを向いて話しているので、矢倉の顔がよく見える。

話しながら矢倉はちら、ちらとこちらに視線を向けてくる。

心なしかか矢倉の口が「金剛」と何度も言っているような気がして落ち着かない。
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