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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

「…そうだけど、何で知ってんの?」

矢倉は中途半端に扉を押し開けたまま、怪訝な顔で振り返る。

「何で、って。お前ちょっと有名だっただろ。走り早くて、頭も良いって」


そんな優等生な時代もあったかな、と頭をかく。

黙ったままの俺を横目で見て矢倉は扉を全開にし渡り廊下を渡って行く。

俺も矢倉の背中を追った。
矢倉は廊下の突き当たりの倉庫代わりにされた教室の前で足を止め、何の戸惑いもなく扉を開けると、中に入って行く。

そして幾つかの段ボールがまとめられたものを両手に抱えて戻って来る。

「こんだけしかねえな。」

矢倉は一つの塊を俺に渡すと、扉を閉めた。

「足りんのか?」

「いや、どうだかな。窓に貼ったり仕切りに使ったりするらしいから、もう少しいるかもな。」

「そうか」

それからは何も話すことはなく、二人で教室に戻って来た。

教室には3つ程の班がそれぞれ固まって何かしていた。俺と矢倉に気付いた早瀬が近付いて来る。

「二人ともありがとう。段ボール見つかった?」

「ああ。でもこんだけしかなかった。足りるか?」

矢倉が段ボールを少し掲げて早瀬に見せる。

「うーん。今企画班と話してたんだけど、道作るのには机を使おうか、ってことになって。」

「うーん、でも使える教室がそこまで広くないんだよな。」

企画班の一人らしい、色素が薄く全体に柔らかい雰囲気の奴が早瀬の言葉に会話に入ってくる。

「あ、金剛くん、矢倉くん、ありがとうね。」

にこ、と柔らかく笑う様子からしても本当に優しい雰囲気だ。
その姿に「羽生」と早瀬が声をかける。どうやら羽生というらしい。

「いや…俺は別に。」

感謝されて妙に気恥ずかしくなる。

「係りだからな。」

矢倉は無愛想にそう言うと、買い出し係りの一人に寄って行く。俺も一応買い出し係りのようなので着いて行った方がいいのかと矢倉の背中を見つめる。


「迷路形式のお化け屋敷って無理があるんじゃないのかなあ?」

と羽生が言う。

「正直盛り上がりに欠けるかもね。最後になるのに中途半端なことしたくないし。」

難しい顔で早瀬が言う。

「あの…さ、」

難しい表情で話し合う二人におずおずと口を挟む。

「自分達で録音したホラー話を聞かせる、ってのはどう?」

ぱちくり、と瞬きをする早瀬。きょとん、とした表情の羽生。

「あ…いや、ちょっと思っただけ、」

「すげー良いよ!!!」

目をキラキラさせて羽生が叫ぶ。

「え、あ、そうか?」

「金剛、それ良い考えだよ。」

早瀬も賛同し、すぐに企画班の集まっている場所に寄って行く。

「えーそれいいじゃん。」
「いいんじゃね。」

という声が向こうからも聞こえちょっと嬉しくなった。
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