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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

「あれ、中河先生、金剛くんとお知り合いですか?」

少し驚いた表情で矢倉が聞いてくる。

「あ、やー、ちょっとな。」

中河には珍しく頭をかいたりしてうろたえた様子にこっちまで無駄に焦ってしまう。

「矢倉、焼却炉に捨てられちゃったのか?段ボール。」

何もやましいことはないというのに、俺はさらりと話題を変える。

「いや、捨てられた訳ではないらしい。一応焼却炉横の倉庫にまとめてあるんだと。足りなさそうだったら近所のスーパーにでも頼むしかないな。」

きりっとした眉を少ししかめながら矢倉は言う。
矢倉はちら、と中河に視線を向ける。

「では、中河先生俺たち失礼します。」

「あ、ああ。文化祭準備頑張ってな。」

中河は落ち着かない様子で眼鏡を中指で押し上げると職員室に入って行った。

中河のいつもらしくもない様子に心配になりながらも、既に歩き出した矢倉の背中を追う。

お互い黙ったまま廊下を進む。ここから焼却炉付近までは少し距離がある。今更ながら、ほとんど初対面の矢倉と二人きり、という気まずいシチュエーションに気付いて沈黙が重たい。

俺ほとんどクラスのこととか興味なかったから四ヶ月経った今でも矢倉がどういう奴なのか知らねえし……。

男でも羨ましい矢倉の筋肉質な背中を見つめながら階段を降りる。日頃運動不足を感じていた俺は、目の前の男がどんな運動をしているのか興味が出てきた。

日焼けしてるしガタイいいからサッカーか?
坊主じゃないから野球、ではない。でもそれにしては下半身の筋肉そこまで付いてないな。…まあズボンはいてるから分かんねえけど…。んー…全体に付いた筋肉、広い肩幅。背も高いし。

「矢倉って水泳部?」

思わず口を付いて出た言葉にしまった、と思った。
話し掛けられたことが意外だったのか矢倉は顔だけ振り返って立ち止まる。

「…ああ、そうだけど。」

だから何、と言いたげな涼やかな表情に冷や汗が出る。正直その後の会話とかは考えていなかった。まあ、初対面なんだからこうなるよな…。

「…あ、いや、すげーいい筋肉だなーって…はは。」

言ってしまってから後悔する。筋肉とかどこ見てんだよってなるよな…。しかも初対面の人間に言われたら普通気持ち悪いだろ。

矢倉は少し眉をしかめた後に

「まあ毎日部活漬けだからな。」

と答え、そのまままた階段を降りて行く。

会話、一応成り立ったんじゃないか…?と妙に嬉しくなる。

「そっか。」

頬を緩めて答えながら矢倉に着いて行く。

「お前さあ、中学の時陸上やってたろ?」

廊下を進み、渡り廊下の扉を開けながら矢倉が聞いてくる。
思いもしなかった質問に思わず足が止まってしまう。
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