白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師
「おはよー」
「はよーっす」
初日ということもあり、登校して来た人数は過半数を超えている。教室に入ると俺が来ると思っていなかったのか、クラスメートからちらちらと見られた。
「おはよ、金剛。やっぱ来てくれたんだな。」
自分の机に鞄を乗せていると、笑みを見せながら早瀬が近付いて来た。
「ああ、結構集まってんのな。」
「ん、まあね。初日だし、部活ない子は来てくれてるよ。皆文化祭楽しみにしてるみたいだからな。」
それはそうだろう。三年になると文化祭なんてやっていられないから、実質これが最後の文化祭になる。
三年は出し物をせず、参加だけとなるのだ。
9時を回ったところで早瀬ともう一人の文化祭委員が中心になって文化祭の準備が始まった。
「えーと、じゃあこないだ決めた通り班同士固まって。大道具、小道具、企画班、買い出し係りは職員室で段ボール貰って来て下さい。」
俺はどの班なんだ、と戸惑っていると教室の前に居たもう一人の文化祭委員に呼ばれる。
「金剛くん。君、買い出し係りだから、俺と一緒に着いて来て。残りの買い出し係りは他の班からいるもの聞いといて。」
「おっけー矢倉」
「うっす」
的確な指示を出し、もう一人の文化祭委員、もとい矢倉は教室を出て行く。俺も慌てて後を追った。
「えと矢倉、だっけ?」
横に並び、がっしりした男らしい体型の男に声を掛ける。
「ああ、矢倉篤巳(やぐらあつみ)だ。」
「何で俺も買い出し係り?」
疑問に思っていたことを口にすると、顔を向けもせずに
「協調性あるのか、お前?」
と素っ気なく聞かれて面食らう。いきなりのキツい一言に言葉が出ない。
「……いや、ねえけど……」
ねえけど普通言うか本人に、と心の中で突っ込む。
「そういうことだ。俺もない。」
そう言って矢倉は職員室の扉を開けた。
「え、」
どういう意味だ。自分もないから気にすんな、って言ってんのか?どこまでも読めない矢倉に始終戸惑う。
「失礼します。」
矢倉はそう言って職員室の中に一人入って行く。
「いらない段ボールを貰いたいのですが。」
職員室の中から固い矢倉の声が聞こえる。
「あー、多分あっちにあったと思うけど。」
聞き慣れた低い声にざわわわっと胸に緊張が走る。
中河……。
俺は入り口付近で固まる。職員室に入るのはまずい。この頭を染めろとか何とか注意されるに決まってる。というか職員室に来たら俺まずいんじゃないのか?そっと戸口から離れようとした瞬間、ぐいっと腕を掴まれる。
「何やってんだ、お前?」
至極不思議そうな顔をした中河が俺を見つめていた。
目が合った瞬間に何か熱いものが俺の中を走った。衝撃、のようなもの。熱く込み上げてくるもの。目頭が熱くなる。
中河の掴んだ腕を通って、全身へ。
「なか、がわ……」
かすれた声しか出なくて、でも何度も呼びたくなって。中河の黒く澄んだ眼鏡の奥の瞳を見つめる。戸惑ったように揺れる中河の黒い瞳。何か言いたげにゆっくりと口を開き、俺の腕を少し引き寄せる。
「金剛、段ボール焼却炉にあるらしい。」
不意に掛けられた声にはっとして中河から離れる。中河も我に返ったようにぱっと腕を放した。
「はよーっす」
初日ということもあり、登校して来た人数は過半数を超えている。教室に入ると俺が来ると思っていなかったのか、クラスメートからちらちらと見られた。
「おはよ、金剛。やっぱ来てくれたんだな。」
自分の机に鞄を乗せていると、笑みを見せながら早瀬が近付いて来た。
「ああ、結構集まってんのな。」
「ん、まあね。初日だし、部活ない子は来てくれてるよ。皆文化祭楽しみにしてるみたいだからな。」
それはそうだろう。三年になると文化祭なんてやっていられないから、実質これが最後の文化祭になる。
三年は出し物をせず、参加だけとなるのだ。
9時を回ったところで早瀬ともう一人の文化祭委員が中心になって文化祭の準備が始まった。
「えーと、じゃあこないだ決めた通り班同士固まって。大道具、小道具、企画班、買い出し係りは職員室で段ボール貰って来て下さい。」
俺はどの班なんだ、と戸惑っていると教室の前に居たもう一人の文化祭委員に呼ばれる。
「金剛くん。君、買い出し係りだから、俺と一緒に着いて来て。残りの買い出し係りは他の班からいるもの聞いといて。」
「おっけー矢倉」
「うっす」
的確な指示を出し、もう一人の文化祭委員、もとい矢倉は教室を出て行く。俺も慌てて後を追った。
「えと矢倉、だっけ?」
横に並び、がっしりした男らしい体型の男に声を掛ける。
「ああ、矢倉篤巳(やぐらあつみ)だ。」
「何で俺も買い出し係り?」
疑問に思っていたことを口にすると、顔を向けもせずに
「協調性あるのか、お前?」
と素っ気なく聞かれて面食らう。いきなりのキツい一言に言葉が出ない。
「……いや、ねえけど……」
ねえけど普通言うか本人に、と心の中で突っ込む。
「そういうことだ。俺もない。」
そう言って矢倉は職員室の扉を開けた。
「え、」
どういう意味だ。自分もないから気にすんな、って言ってんのか?どこまでも読めない矢倉に始終戸惑う。
「失礼します。」
矢倉はそう言って職員室の中に一人入って行く。
「いらない段ボールを貰いたいのですが。」
職員室の中から固い矢倉の声が聞こえる。
「あー、多分あっちにあったと思うけど。」
聞き慣れた低い声にざわわわっと胸に緊張が走る。
中河……。
俺は入り口付近で固まる。職員室に入るのはまずい。この頭を染めろとか何とか注意されるに決まってる。というか職員室に来たら俺まずいんじゃないのか?そっと戸口から離れようとした瞬間、ぐいっと腕を掴まれる。
「何やってんだ、お前?」
至極不思議そうな顔をした中河が俺を見つめていた。
目が合った瞬間に何か熱いものが俺の中を走った。衝撃、のようなもの。熱く込み上げてくるもの。目頭が熱くなる。
中河の掴んだ腕を通って、全身へ。
「なか、がわ……」
かすれた声しか出なくて、でも何度も呼びたくなって。中河の黒く澄んだ眼鏡の奥の瞳を見つめる。戸惑ったように揺れる中河の黒い瞳。何か言いたげにゆっくりと口を開き、俺の腕を少し引き寄せる。
「金剛、段ボール焼却炉にあるらしい。」
不意に掛けられた声にはっとして中河から離れる。中河も我に返ったようにぱっと腕を放した。