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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

とうとう夏休み間近になった。耳が常に蝉の鳴く声でわーん、わーん、と響いている。

中河とは結局会えず仕舞いで、俺は毎日の忙しさに中河のことを考える暇もない。

「えー、夏休み中の文化祭準備についてですが。」

教壇の上にはまだ頬にうっすらと傷が残っている早瀬の姿。
早瀬は文化祭委員らしく、もう一人のきりっとした男らしい顔立ちの生徒と共に、文化祭準備の説明をしている。

終業式である今日も、真面目に登校した俺は手元に配られたプリントに目を落とす。

……文化祭準備日程、か。
クラスの出し物はお化け屋敷。無難なそれも、クラスの奴らはなかなか楽しみにしているようだ。
素行不良と周りに話しかけないせいで、クラスで浮いてしまっている俺は、文化祭準備に出るものか悩む。
手伝わないのは悪い気がするけれど、だからと言って俺が行ったら、妙な空気になるのではないだろうか。
しかし“友人”である早瀬が文化祭委員なのもあって、手伝いたいという気持ちはある。

「…以上です。最後に、夏休みだからといって私服で来ないように。制服で来て下さい。」

「うぃーす」「はーい」とまばらな返事が上がり、ざわざわと皆帰る準備を始める。

今日から夏休み、という解放感に誰もが浮き足立っていた。

俺も帰ろうと席を立ち上がると、黒板の前でもう一人の文化祭委員と話していた早瀬が近付いて来る。

「金剛」

「ん、どした?」

近付いて来た早瀬に顔を上げる。

「明日早速、文化祭準備あるから。」

口元を緩めてわずかに笑う早瀬に俺は困ったように目線を泳がせる。

「やっぱ……」

行かねえと駄目か?という意味を含んだ言葉は早瀬の

「絶対来てよ。」

という言葉でばっさり切られてしまった。

「来てくれたらさ、良いことあるから。」

口元を緩めたまま早瀬は言って、ぽん、と俺の肩を叩く。

「は、良いこと?」

「そ、良いこと。じゃ、頼むな。」

早瀬はそう言い、また教壇の近くに戻って行った。

良いこと、って何だよ。
妙に確信を持った言い方だったけど……

俺は不思議に思いながらも、仕方がないから明日はちゃんと行こう、と決めたのだった。
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