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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

「俺は思うんだけどさ。迷ってもいいと思う。悩んだらいいと思うし。でも、決断するのは、もっと後でもいいんじゃねえかな?だから、考えるな。」

にこ、と笑顔で早瀬に言ってみる。

早瀬は、はっとしたような顔でじっと俺の顔を見つめていたが、眉を困ったように寄せて、泣きそうな顔で笑った。

そして、小さなかすれた声で、ありがとう、と言った。

俺も、少しは早瀬の“助け”になれたのかもしれない。


——————


「はよっす、けーすけさん。」

「よぅ、赤津」

今日はバイトの日なので学校帰りに直接来た。

「なんか疲れてないすか?」

心配そうな顔で赤津が聞いてくる。

「あー…、最近真面目に学校行ってっからさ。」

答えながら俺はロッカーを開き着替え始める。

「え!?マジすか…圭介さんなんかあったんすか?」

赤津は驚いて目を見開いている。

「あー、だからさ、まだ決めてねえんだけど、」


「赤津ー!こっち手伝って!」

言おうとして店から二葉さんの声がかかる。

「すんません、呼ばれてるんで行きます。」

赤津は申し訳なさそうな顔でロッカールームを出て行った。

俺も素早く店のTシャツに着替えると、ロッカールームを出た。



帰宅すると今日も家の中は静まり返っていた。音を立てずに鍵を閉めると、急いでシャワーを浴びる。

くたくたに疲れた身体に、熱いシャワーが心地良い。

頭を拭きながら階段を上がる。リビングも真っ暗で、誰も起きている気配はない。

自室のある三階まで上がると、明人の部屋から明かりが漏れていた。

…またあいつ勉強してんのか。

受験生だと言っても、まだ夏休み前だ。こんな早くから遅くまで勉強していて、冬まで保つのだろうか?
塾もほぼ毎日行ってるのに、やり過ぎなんじゃないだろうか、と心配になる。

気になってそっと扉を開けると、部屋の奥の窓際の勉強机で、こちらに背を向けて勉強している明人が見える。
扉が開いたことにも気付かないようで、かりかり、とシャーペンを走らせる音だけが聞こえる。

……無理すんなよ、と心の中でだけ呟いて扉を閉める。

兄としては、もっと気楽にやって欲しい。
言っても高校受験なのだから、気楽に行くべきだ。肩に力が入り過ぎているのも、問題だと思う。

真面目で一生懸命な明人のことだ。だらだらと過ごしているのが不安なのかもしれない。

俺は明人のことを心配しつつ、ベッドに飛び込むとすぐに意識を失った。
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