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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

最近段々早起きになって来たな、と思う。両親を避けるように朝早く家を出て、行きに買った朝食を教室で食べながら、勉強する。というのが毎日の流れになっていた。

俺の次に登校して来るのはいつも早瀬で、話をする時もあれば、早瀬が落ち込んだ雰囲気の時は、俺は黙々と勉強している。でもそんな静かで落ち着いた関係が心地良かった。友達だからこそ、気を遣うことなく過ごせる、ということが素晴らしいことのように感じる。


今日も一人勉強していたら、ふらりと早瀬の入って来る気配。

「おはよう」

「おはよ」

いつも早瀬から挨拶して、俺も答えて、お互いを気にすることなく好きに過ごしている。

しかし今日はふと上げた視線の先から目が離れない。

早瀬の頬が赤く腫れていた。


「早瀬……」

唖然として早瀬の左頬を指差すと早瀬は困ったように笑った。

「ああ、ばれたか。親と少し口論になったんだ。」

ばれたか……って、そんな目立つ傷に気付かない奴は居ないんじゃないだろうか。

早瀬は視線を伏せて、自分の机に腰を預ける。

「……冷やしたのか?」

口論した、ということと早瀬の沈んだ雰囲気も気になったが、とにかく手当ての方が先だ。

「…まだ。飛び出して来たから。」

俺は教科書を閉じると、立ち上がり、早瀬の手を引いた。


「保健室、行くぞ。」

「そこまで酷い傷じゃないよ。」

「そんな腫れた顔で授業受けてたら、みんなびっくりすんぞ。」

俺は早瀬を引っ張ったまま教室を出て、廊下を進む。


「…そんな、酷いかな。」

早瀬が弱々しい声で聞いてくる。

「とにかく冷やさねえと。冷やせばいくらかマシになる。」

「わかった」

いつもより元気がない早瀬を連れて、廊下を進む。すれ違う教師は俺と優等生な早瀬のコンビに目を白黒させている。早瀬の頬が腫れているもんだから、俺がぶったのかと睨んでくる奴もいた。

とにかく気にしていられないので、足早に廊下を進む。まだまだ登校するには早い時間で、廊下は静まり返っている。


廊下の窓からはまだ朝だというのに、じりじりと暑い日差しが差し込んでいる。

俺は自分がどうにか出来るはずはない、とわかっていたけれど、早瀬を助けたかった。
早瀬がこのところ、何かを悩んでいることは薄々わかっていたし、度々担任に呼ばれて話をしている姿も見かけていた。

何も出来なくても、友達として、どうすればいいのか、早瀬を見ながらずっと考えていた。

でも結局俺は何も出来ないんだろう。
決断していくのは早瀬だから。

でも、“いつでも話聞くぞ”って態度で、見守ってやることくらい出来るんじゃないだろうか。
俺もお前の味方だ、って示していくことなら。

そうだよな、中河。
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