白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師
通り過ぎる人は大抵、着崩した俺の格好を興味なく見やる。だがその制服があの有名な私立のものだと解ると驚愕に目を見開く。
――あの有名な進学校にも、あんな生徒がいるのか、と。
教室に入ると、ほとんどのクラスメートが揃っていて、俺が朝早くから登校して来たのに少し驚きを見せた。でもまた、それぞれの会話に戻り、まるで俺がいないかのように振る舞う。
俺は窓際の自分の席に座ると、窓の外に目をやった。クラスの何人もの生徒が、朝から自習をしている。朝くらい友達との会話を楽しめばいいのに……まあ俺だって、友達と言える友達がいないのだから人のことは言えないが。
窓の外は中庭だ。背の高い木に覆われた中庭から涼しい風が入ってくる。自然の涼しさに目を細めていると、遠慮がちな声がかかった。
「…こん、ごう……」
振り向くとおどおどとしたクラスでも目立たない大人しい奴がこちらを伺っていた。当たり前に黒い髪を綺麗に揃えて、きっちりと制服を着ている。一度も親に迷惑かけたことなんてないんだろうな、ふとそう思った。
不安そうに薄い色の瞳が揺れている。
ここの学校の奴らは、俺がヤンキーだと思っている。巷で流行りのギャル男系ファッションを知らないのだ。
じっ、と観察しているとそいつは怯えたように、教室の前の扉を指差す。呼んでる……と消え入りそうな声で告げると、そそくさと友達の元に逃げて行った。
――お前、まじびびってんじゃん。わはは。
――うっ、うるせえよ。じゃお前行って来いよ。
――やだよっ!殺される、わはは。
そんな風に話すさっきの奴と友達らを視界に入れないようにして、扉に目を向ける。
気だるげに扉のふちにもたれかかった中河がちょいちょい、と手招きしている。今日も真っ白な白衣を着て。
俺は仕方ないと小さく息を吐き、中河に近付いて行った。
「なんの用だよ」
中河の顔を見ると、昨日のことが思い出されてまた苛々して落ち着かなくなる。
中河はこの階は風が通って涼しいな、なんてどうでもいいことを言いながら眼鏡を人差し指でくいと上げる。
俺はそんな様子にも苛々してついとん、とん、とつま先で床を叩く。
「やけに苛ついてるな、金剛。」
お前のせいだ、と言うのは俺のプライドが許さない。
昨日の赤津といい、そんなに俺は顔に出てるというのか。
「昼休み、弁当持って理科準備室に来い。」
弁当、なんてねえけど。と思ったが口には出さず、「解った」と答えた。どうせこいつのことだ。嫌だとか言ったり、嘘付いたって、昨日の放課後みたいに無理やり引っ張って連れて行くのだろう。
大人しく行って、さっさと終わらせてやろうと思った。