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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

「ふう」

ベッドに思いっ切りダイブして息を吐く。結局俺は理科準備室に行かずにホームルームにも出ずに帰って来てしまった。


「中河…」

あの生徒と教師を見てから、中河に会いに行く気になれなくなってしまった。実際は、昔のことを思い出して、気持ちが沈んでしまったから、だけれども。

こんな沈んだ気持ちで会いに行っても、結局はまともに話が出来ないか、甘えたことを言って困らせてしまうか、だ。


「いつまでもこんなことじゃ駄目だよな。」

口で言ってはみても、心は全然着いて行かない。

中河に甘えてしまいたい気持ちと、ここで甘えてしまったら一生自分に勝てなくなるんじゃないか、という気持ち。

もやもやとした気持ちを隠すようにクッションに顔をうずめていたら、不意にコンコン、と扉が遠慮がちにノックされる。


「…はい」

起き上がり返事をすれば、ガチャと音を立てて扉が開き、やっぱりそこには明人が立っていた。

明人はまだ中学校の学生服のままで、少し眉を垂らし不安そうな顔をしてこちらを伺っている。

「何だよ、入れば?」

入れてくれるの!?と言わんばかりに顔がぱあっと輝き明人はいそいそと入って扉を閉める。

「兄ちゃん今日早いんだね?」

「あ?ああ。」

俺はさっさと用件を言えよ、と言う気力もなく、ベッドに座って壁にもたれかかったまま、あらぬ方向を見つめていた。

「…え、えーと…」

明人はこの間のことに関して気にしているのか、一人で気まずくなっているようだ。勢いで入って来たものの、会話が続きそうにもないこの状態にまた眉を垂らしている。

「こっち来て、座れよ。」

ベッドの空いたスペースをぽんぽんと叩けば、明人は嬉しそうに寄って来る。

「お前今日塾は?」

「あと30分したら出る。」

「ふーん。」

会話が終わりそうな雰囲気に明人は慌てて言葉を紡ぐ。

「に、兄ちゃん、最近学校真面目に行ってるよな。やっぱあの先生、」

話を蒸し返そうとする明人に思わず、「またそのことかよ」とこぼしてしまう。

「違うんだ、兄ちゃん。謝ろうと、思って……」

尻すぼみになりながら明人は言う。

「兄ちゃん、あの先生のおかげで、真面目に学校行くようになったんだよな…?だから俺、自分が間違ってたって思って。」

だから、と俺を上目遣いで見つめる明人に、はあ、と溜め息が漏れる。

「だから気にしてねーって。」

「本当!?」

「この話はもう終わり。」

「あ、うん。うん!」

明人は納得したのか、笑顔を見せ「じゃあ俺もう用意して来る!」と言って部屋を出て行った。

一人静かになって部屋でベッドに横になる。

「なーんか、あいつと原田が被るんだよな……」

弾劾のように話し続けるうるさいけれど、どこか憎めない昔の顔なじみを思い浮かべながら、小さく呟いた。
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