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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

朝の教室は蒸し暑い。

中河と話をしてから数日、心の中は大きく変わったけれど、生活は何が変わるでもなかった。

“先生”と俺が呼んだ時、中河は、すごく嬉しそうだった。

でも、喜ばれることに喜んでいいのだろうか。俺は中河が好きな訳で、教師と生徒の関係は大切だけど、徐々に変えていきたい訳で………

頭をぐしゃ、ぐしゃと掻き回す。

最近、告白したということで、満足感はあるのだけれど、その後すぐに、不完全燃焼な“好き”という感情が捌け口を探して現れてしまう。


でも、返事をいらないと言ったのは俺なのだし。その気持ちは嘘ではない。

金髪に傷んだ髪を手ぐしで直しながら、あ、と気付く。

黒い髪が1センチ程、生えてきていた。

染め時…だな。

教科書を机から出して、一時間目の予習をする。最近朝早めに学校に来て、授業の予習をするのが日課になっていた。俺もすっかりこの高校の生徒らしくなったもんだ。……見た目以外は。

夜はバイトがあることが多いので、朝に予習することが多くなった。
あまりに長い間勉強をさぼっていたので、最初は苦痛だったが、慣れてしまえばどうということもない。


「毎日、頑張ってるね。」

無表情にわずかに笑みを乗せて、早瀬がまだ無人の前の席に身体をこちらに向けて座った。

「…まあ。早瀬はあんまり学校で勉強してるとこ見ないよな。」

早瀬が窓を全開に開けた。さあっと木々を揺らしながら風が入ってきて心地良い。

「俺はそんな勉強好きじゃないから。」

早瀬は苦笑混じりに言う。

優等生の早瀬に似合わぬ言葉に、つい煙草を吸っていた早瀬を思い出す。

最近俺は禁煙、というか煙草止めたけど、早瀬はまだ吸っているのだろうか……あの、誰も知らない屋上で。

今の憂いを秘めた早瀬の表情には、煙草がとても似合うと思った。

早瀬は窓の外、どこか遠くを見ている。

俺は何だかこっちまでその雰囲気に引きずり込まれそうで、教科書に目を落とした。
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