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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

「中河」

俺の真剣な呼び声に中河は身体を起こしこちらに向き直る。

「教師だから、とか、生徒だから、とか言わねえの?」

「…お前は、そういう答え、望んでるのか?」

中河は少し優しい顔をして、聞いてくる。

「望んでない。真剣に、そういうのナシで、俺と向き合って欲しい。」

中河は微かに頷く。
俺は静かに続ける。

「だけど……いきなり言われて戸惑うだろうし、俺をそんな目で見れないこともわかる。だから、答え、いらねえから。諦めてる訳じゃねえけど、すぐに出るような答えじゃないってのもちゃんとわかってる。ただ、好きだってことは伝えたかったから。」

はっきりと目を見て、伝えられた。胸の奥が熱くなる。
好きだ。好きだ。好きだな。

でも、困らせたい訳じゃないから。

「……お前って、思ってたよりか、大人だな。」

中河は眩しいものを見るように目を細めながら口元を緩める。

「それは、中河が、俺をそうしたんだと思う。」

俺は照れ臭くて視線を逸らす。
でも本当に中河のおかげ。
中河が俺を変えてくれた。


「……そっか。」

中河は心なしか嬉しそうだった。

「…今は、原田のことをどうにかしないとな。」

くす、と笑いながら中河は言う。

俺はその名前に顔をしかめた。

「冗談だよ。お前の好きにすればいい。」

ちら、と視線を中河に向ける。黒くて真っ直ぐな瞳が俺をしっかり見つめていた。

“お前の好きにすればいい”

そんなこと言われたの、初めてかもしれない。
中河は何気なく言ったのだろうけど。
今まで親がすすめるままに中学受験して、言われたまま生きてきて、グレて……お前の好きにすればいいだなんて、言われたことあっただろうか。

中河はすごい。俺が欲しい言葉、当たり前のようにくれる。

「…ッ俺、中河先生みたいになりてえよ。」

ずっと、心の中で呼んでいた“先生”。

「先生」と、もう一度、心から呼べる人が俺はずっと欲しかった。頼れる大人が。


ぽん、と頭の上に乗った中河の手は温かい。
優しさ、大きさ、中河の全て。強引さであるとか、ひっくるめて。

全てが温かく感じた。
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