このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

『中河先生。何をされているんですか。』

いつの間に扉が開いていたのか――

やましい所を見られた訳でもないのに、俺の心臓は早鐘を打っていた。

厳しい目つき。一つ上の学年の学年主任の、厳しいと有名な古株の男性教師だった。

その男性教師は厳しい目つきで涙を流している萩野と、慰めるように背中をさする俺の右手を見る。

―――やばい。

何かが危険だと頭の中で悟る。

『中河先生!離れなさい!』

男性教師の怒鳴り声に萩野は肩をビクッと震わせる。
俺は咄嗟にさすっていた右手を離す。

『君、もう帰りなさい。下校時間は過ぎているよ。』

厳しい雰囲気に萩野は戸惑いながらも、はい、と答え、俺に『先生さようなら』と愛らしい笑みを見せて帰って行った。

理科準備室に残ったのは俺と、厳しい表情をした男性教師。


『一体どういうことか説明して頂けますか。』

『どういうことも何も……』

『私がこの書類を持ってここに来た時には、あなたとあの生徒は、好きだなどと告白し合っているように思いましたが。』

その言葉に愕然とする。――勘違いされてしまったのか。

『勘違いなんです!』

その言葉に男性教師は少し哀(あわ)れんだような目を向ける。

『中河先生。あなたが、下校時間を過ぎてまで生徒と二人っきりで居た、という事実が問題なのです。あなたもこの学校の教師ならわかるでしょう?』


『そんな……職員会議に挙げるのですか……』

『あなたが生徒思いのいい先生だということは誰もが知っている。だから私はそこまでするつもりはありません。ですが、教師としての立場というものを考えて行動して下さい。いくら可愛い教え子でも、教師と生徒というラインを越えてはいけない。』

『………わかりました。』


俺は今まで萩野という生徒一人に対して、近付き過ぎていたのだと気付いた。

この教師の言う通りだった。教師という立場がどんなものであるか忘れていた。

それから俺は萩野と一線を置いて接した。
自然と萩野は自分の気持ちが憧れ以上のものではないと気付き、離れていった。

寂しいという気持ちや、優越感を失う焦りというものは、もはやもうなかった。

それからはずっと、生徒に頼られる身近な存在でありながら、教師という立場で一線を引いて生徒と関わってきた。

なのに………

俺は金髪に、着崩した制服を着たあいつを思い出す。

――俺、あんたのこと好きなんだけど。

はあ、と溜め息を吐く。

どうすればいいって言うんだよ。

どうすればお前は満足なんだ、………金剛。
27/65ページ
スキ