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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

数年前、一人の生徒が居た。

名は、萩野祐季(はぎのゆうき)。

猫っ毛の髪に、色素の薄い茶色の目。色白の肌が印象的な高校一年生。

まだ幼くて、愛らしい萩野のことを俺は可愛がっていた。
萩野も俺を慕ってくれていた。

『先生、せーんせっ』

『なんだよ?』

『聞いてる?だから~…』


まだ教師に成り立てだった俺は、慕ってくれる萩野と過ごすちょっとした時間に、自分が教師なのだと実感できた。だから、俺にとって萩野は特別な存在だった。
俺を“教師”として慕ってくれる生徒。優越感のような、満足感のようなものがあった。



『先生、俺、先生のことが………好きかもしれない。』

『…なんだって?』

『先生のことが、好きなんだ。』

萩野の告白――

予想外にこたえた。これを断ってしまえば、萩野は生徒としてもう二度と俺の元に帰って来ないかもしれない。

俺はそれが怖かった。

でも流石に告白を受け入れることは出来なかった。

俺もこの学校が母校で、中学から六年間通った。だから男が男を好きになることに抵抗はなかった。男と付き合ったこともある。

しかし――

『萩野……頭を冷やせ。お前は俺への憧れを恋愛感情と勘違いしているんだ。』

萩野は大きな目に女の子みたいにいっぱい涙を溜めていた。

『……先生、そんなこと……。もしそんな軽い気持ちなら、こんなこと言えないよ。先生に好きなんて言えないよ!先生のこと大好きなのに!』

そこから泣きじゃくる萩野をなだめるのに必死だった。


『萩野。落ち着け。解った、解ったから。萩野が俺のこと思ってくれているのは嬉しいよ。でも、俺と萩野は教師と生徒だろ?』

その言葉に萩野は顔を上げ、きっと俺を睨んだ。

『どうして生徒だからいけないんだよ?どうして教師だからいけないの?先生だって一人の人間じゃないか。俺は一人の人間として先生が好きなんだよ。』

もっとも過ぎる萩野の言葉に俺は何も言えなかった。


生徒だって人間だよな。俺だって教師だけど人を好きになるし。

『先生は一人の人間として俺のことどう思ってるの?』

一人の人間として――か。

『俺は、萩野のこと好きだよ。』

そこに恋愛感情はないけれど。

『本当に!?』

『ああ。一人の人間としてな。』
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