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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

それからのことはあんまり覚えていない。金曜日ということもあり忙しくて、注文を取ったり酒を出したり、必死だった。

と言うより、必死になった。

必死にあの女と中河がベタベタしているところを見ないでおこうと、必死だった。

中河達の会計は、俺がすることになった。
会計を済まし、店の外まで客を見送るのが決まりだから、中河達と外に出る。

「ありがとうございました。」

「先、行ってて。」と中河の声がして、女達が離れて行く。

頭を下げる俺の頭にぽん、と骨張った手のひらが乗る。

なんか涙出そうになって、ぐ、とこらえる。

「今日悪かったな、何も言わないで来て。」

俺は顔を上げることも出来ないまま、黙って聞いていた。

「お前って何かほっとけねえ。」

酔っているのか、中河にはいつもみたいな教師らしい雰囲気がない。

「何で今日あんな冷たかったんだよ。仮にも教師に酷くねえ?しかも俺、勉強教えてやったじゃん。」

言ってることはちぐはぐで、急に感情的になってまくしたてる中河に俺は焦った。

中河の手を振り払い顔を上げる。

中河はいつの間に眼鏡を外したのかしておらず、ストレートに黒い瞳と視線がぶつかる。

「あ?見てんじゃねーよ。」

しかし手を振り払ったことが気に食わなかったのか、中河は急に不機嫌になった。

「ちょ、中河、酔ってんだろ。」

「酔ってねえって。だいたいお前、誰に向かって口聞いて、」
「歩くーん!」

向こうから突如聞こえた女の声。

俺は思わず中河の腕を取ると、

「ちょっと吐きそうみたいなんで連れて行きます!」

と咄嗟にそう叫んで、歩き出していた。

この酔っぱらい、むかつくんだよ。むかつくんだけど、このままあの女の所に行かれると思ったら更にむかついて。

だから、衝動的に俺は、中河をあの女のとこには返さないと決めていた。
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