このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

たん、たん、たん、たん

一人静かに階段を降りて、早道になる渡り廊下を渡る。渡り廊下からは窓越しに少し理科準備室が見える。俺は少しだけ、ゆっくり歩く。でも結局はあっという間に通り過ぎてしまう。


自覚してしまってからは、全ての見え方が変わる。
それは古い校舎だったり、教室だったり、制服だったり。

俺がこの学校で接するもの全て。

何かがどこかで、中河と繋がっているような気がして。


————————



「はよっす、圭介さん。」


更衣室に入ると赤津が居た。今来たところらしく、携帯をいじっている。

「はよ」

俺もロッカーにかばんを入れ、制服を脱ぎ出す。いつもジーンズとスニーカーをロッカーに入れたままにしておいて、店指定の黒いTシャツだけ鞄に入れている。

「今日予約入ってるらしいっすよ。言っても5人っすけど。」

まあこの時は珍しいな、と思っただけだったのだが。



「いらっしゃいませー。ご予約の方になりま…すね」

「ちゃんと働いてるか、金剛」

センター分けの前髪にノンフレームの眼鏡。にや、と笑う顔はいたずらっ子みたいだ。予約の客は中河だったらしい。

仕事終わりにそのまま来たのかスーツ姿だ。学校と違ってリラックスした雰囲気なのは、どうやら友人と飲みに来たかららしい。

中河と他に男が三人。一人だけ女だ。パンツスーツに高い位置で長い髪をくくったポニーテールがよく似合っている美人だった。思わず見てしまう。

中河の隣に立った女は、中河に視線を向ける。


綺麗なピンク色のリップを塗った唇が緩く弧を描き、薄く開く。

「歩(あゆむ)くんの生徒さん?」

胸が、何か刺さったみたいに、急に痛んだ。
21/65ページ
スキ