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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

急にもたれていた扉が後ろに開き、倒れそうになる。

とん、と背後に立つ誰かの胸板にぶつかる。

「悪ィ…」


振り返ると、一番上まで閉じたカッターシャツ。優等生を絵に描いたような……

「早瀬?」

少し驚きながらそう言うと、無表情の早瀬はにこりともしないで

「さっきぶり」

と言った。

「え、え?授業は、」

戸惑う俺に涼しい顔で「さぼった」と言って、扉を閉め俺の隣に並ぶ。


早瀬がズボンのポケットから小さな缶のケースを取り出し、開ける。

あ、と声が漏れた。

ケースの中には煙草が入っていた。

「ライター、貸してくれる?」

なんでもないことのように言って、早瀬は無表情で俺を見る。

「あ、おお…」

胸ポケットから取り出し、投げてよこす。早瀬はキャッチして煙草に火を付けた。

あの吸い殻、早瀬だったのか。

優等生みたいな顔して、わかんねえな。

しかもバレないように、缶になんか入れやがって。さすが優等生というかなんというか……

メンソールの入ったつん、としたにおいが広がる。

「なんで、浮かない顔してんの。」

前を向いたまま早瀬が聞く。

俺も新しい煙草に火を付けてくわえながら、

「なんで、って。」

気力もなく答える。

「中河先生?」


視線をまっすぐ前に向けている早瀬の横顔は何も感じていないみたいに無表情だ。


「……そう、かも。」

「…ふうん。そっか。」


それっきり早瀬は何も言わなかった。

俺も何も言わずに、煙草を吸いながら、中河のことを考えていた。


ゆらゆらと二つの紫煙が、雲一つない空に上がっていく。


授業中の静かな静かな校内。


誰も俺たちが何をしているか知らない。


不思議な気持ちになった。

まるで世界に二人で取り残されたような……
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