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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

昼休みが終わりそうなので、理科準備室を出て教室に戻る。
廊下をすれ違う奴らがちらちらと見てくるが、無視した。どうせ、一年だろう。


教室に入ろうとして、早瀬が出てきた。

「ああ、金剛。物理のテスト良かったんだってね。」

無表情で早瀬が聞いてくる。尋問されているようだが、そんな気はないようだ。

「ああ」

「やっぱ勉強頑張ってたんだな。」

早瀬は少し口角を上げて笑った。

「…中河のおかげ」

ぼそりと呟いた俺に、え?と聞き返す早瀬。

チャイムが鳴り、早瀬の横を通り過ぎ席に着いた。

早瀬はどこかに行こうとしてたのを諦めたのか、教室に入り、俺の斜め前の自分の席に座った。

座る前に何か言いたげに俺の方をちらりと見たが教師が入って来たので諦めたようだ。

窓の外を見る。いやに晴れた空。俺の心とは裏腹に。

もう今日で終わりだなんて、どうすればいいんだろう。

考えれば考える度、もう接点がなくなってしまったように思えてくる。

そういや最近煙草吸ってないな、と頭に浮かぶ。

煙草吸う暇もないほど、毎日勉強してたから。
充実、してたのかも。

かたん、と席を立つ。社会科の教師がどうした、と形だけ聞いてくる。「トイレ」と短く答え教室を出る。

簡単に、呆気なく、俺は中河が居なければ、すぐに元の落ちこぼれに戻る。
少し、勘違いしていたのかも。
俺はまた昔みたいにやり直せるって。


——————


慣れた足取りで屋上に向かう階段を上がり、ヘアピンで鍵を開ける。こつさえ掴めば呆気なく鍵は外れ、炎天下の屋上に出る。

扉を背にしてもたれかかったまま、煙草を取り出す。禁煙生活も終わりか、なんて思いながら、火を付け一服する。
全身に染み渡るような気がして、心が静まっていく。

ああ、これだ。

俺はこれでいい。

中河の期待になんて、答えられないんだ。俺は。


吸う度に、元の駄目な自分に戻っていくような感じがする。


あっと言う間に一本を吸いきり、ぽい、と影になった所に投げ捨てる。

あれ、俺のじゃない吸い殻……

まだ新しく、最近捨てられたもののようだ。

俺みたいな奴、この学校にも居たんだな、と少し驚いた。
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