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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

8時を回り、ちらほら生徒が登校してくる声が聞こえる。それでもまだ早い時間だ。

教室にも一人クラスメートが登校して来た。
一人勉強をする俺に面食らった顔をしたまま入り口付近で突っ立っている。

ちらりと見やると、いかにも優等生っぽい奴だった。
一番上まできっちりと閉めたボタンに、綺麗に締められたネクタイ。

制服も毎日アイロンをかけてますといった感じに整っている。

俺とは正反対の、いかにも真面目そうな……
いや、この学校の生徒らしい生徒だ。


「……おはよう。」

小さな声が聞こえ、最初は誰に言ったのかわからず、無視してしまったが、驚いて顔を上げる。

まだ扉付近に突っ立ったままのそいつは、真顔で、じっと俺を見つめている。

……俺に言ったのか?

と戸惑っている俺に繰り返しそいつは言う。

「おはよう。」

「…あ、おはよう……」

戸惑ったまま返す俺に真顔のそいつはつかつかと近寄ってくる。

どうやら斜め前の席らしい。鞄を置いて、俺を振り返る。

「金剛って、真面目に勉強する奴だったんだな。」

顔が真顔過ぎて尋問されているような気になる。

「あ、ああ、まあ。」

「そういや毎日昼休みに理科準備室に行ってるもんな。」

「……何で知ってんだ?」

「俺、写真部なんだ。中河先生、顧問だから。昼休み用があって行くと、いつもお前がいて勉強してるから、言いそびれるんだ。」

真顔だから若干責められてるのかと思ってしまうが、どうやらそんなニュアンスはないらしい。そいつは机に腰を持たれかけると、白い四つ折りのハンカチをポケットから取り出し額を拭う。

「…写真部」

小さく呟く。
中河って写真部の顧問だったのか。まあ、運動部の顧問をしてる所なんて想像つかないけど。

なんか、やだな。目の前の写真部員が妙に羨ましくなる。

羨ましい、なんて、一体なぜ?
考えようとして写真部員から声がかかる。

「写真、興味ある?」

「ない」

「…ふははっ、即答だね。」

真顔だった顔を崩すと、人懐っこい子供みたいな笑い顔になる。

ちょっと驚いてじっと見てしまう。

「あ、ごめんごめん。気悪くした?」

また真顔に戻って聞いてくる。

「……いや」

「なんか取っ付きにくいのかと思ってたけど、金剛って面白いな。俺、早瀬 滋(はやせしげる)。まあ、よろしく。」

口角を少しだけ上げて早瀬はそう言った。

すぐ後に、クラスメートが何人か登校して来て、俺と早瀬の会話は中断された。
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