このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

昨日の明人との食事は、あの後、あの話題に触れることもなく終わった。久しぶりにまともに顔を合わした弟は、少し大人びて、はっきりと意見するようになっていた。

弟ばかりが成長して、すぐに俺を通り越していくような気がする。寂しいような、妬ましいような。

今朝も俺は朝食を共にせず、家族の楽しそうな声を聞きながら家を出た。途中、コンビニにふらっと立ち寄っておにぎりを幾つか買った。流石に朝食べないと昼までもたない。

駅のホームで電車を待つ間にぱくぱくと食べてしまう。


滑り込んで来た電車に乗ると、通勤ラッシュで席には座れず、扉横に陣取って揺られながら最寄駅を目指した。

……俺が高校を辞めない理由。
それは親に迷惑をかけたくないから、だった。

でも今や、辞めることを考えるとセットで、中河の顔が浮かぶ。

――兄ちゃん好きな人でもできたの?

不意に明人の言葉が蘇って頭をぶんぶんと振る。有り得ねえ、と心の中で否定する。

きっと、きっと、学校で話す人間がいなくて、久しぶりにできた信頼できて、話もできる相手だから、敬愛のような、信頼のような…ものを……抱いて……

ぐああああっと叫びたくなる。

思わずだん、と扉を殴ってしまい、周りから白い目で見られる。

……はあ、と小さく溜め息を吐く。

そんなことは、ない。そんなことは、ないんだ。と繰り返し自分に言い聞かし、電車を降りた。


————————



あまりに早く着き過ぎたのでクラスには誰もいない。静かな校内から、ちらほら朝練中の生徒の声が聞こえるだけだ。

「……どうすっかな。」

小さく口にしながら席に座る。さわさわと風にそよぐ青い葉が太陽の光を浴びてきらきら光っている。…なんかこういうのもいいな。

仕方ないので毎日持って来ている物理の教科書を開く。

ぱらぱらとめくり、開けたのは今日中河と昼に勉強するはずの箇所。

……予習、か。

なんかすっげー楽しみにしてるみたいで気持ち悪、俺。

そう思いつつも、することねえから、なんて自分に言い訳してシャーペンを走らせた。
13/65ページ
スキ