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白衣と眼鏡と落ちこぼれ教師

俺は三階の自室に行き、制服からスウェットに着替えてリビングにまた戻る。

食卓にはレタスの上に綺麗に盛り付けられた焼き肉が湯気を立てていた。

「うまそ。お前料理出来たんだな。」

明人は、へへ、と照れたように笑う。

「俺、たま~にだけど、母さんいない時とか作ってるんだ。」

明人はそう言いながら、椅子に座った俺の前に白ご飯の入ったお茶碗を置く。

エプロンを外そうとしているが雁字搦めに結んだのか手こずっている。

仕方ないので「こっち来い」と手招きして後ろを向かせる。

「どんな結び方したんだよ。ぐちゃぐちゃじゃねえか。」

「はは。俺、りぼん結びとか出来なくて、適当に…」

ほどいてやると、明人はさんきゅ、と笑ってエプロンを取り俺の前の席に座った。


手を合わせて静かに食べ始める俺に明人からの視線が熱い。


「……兄ちゃんさ、好きな人でもできたの?」

その一言にびくっと肩が跳ねた。

「…な、」

「だっていつもと雰囲気違うからさ。ツンケンしてないっていうの?柔らかいっていうか、楽しそうにすら見えるっていうか。」

「…ねえよ。大体女なんか周りにいねえし。」

「そーなんだ。兄ちゃんかっこいいからさ、バイト先で声掛けられたりするんじゃない?」

明人の言葉に吹き出しそうになる。

「…お前なあ。まじで言ってんのか?」

はあ、と溜め息を吐き箸を進める。

「当たり前。兄ちゃんは昔っからかっこよくて、賢くて、運動もできて。」

あまりにもストレートな言い方に頬が熱くなる。

「お前そんな恥ずかしいことよく言えるな。」

「だって本当のことだもん。」

「…………」


こいつってこんなお兄ちゃんっ子だったかな、とちょっと気持ち悪くなる。

「……だからさ、俺最近寂しかったんだ。」

急にトーンダウンした明人に、視線を上げる。

「…兄ちゃんいっつも、避けてるみたいに家にいないから。」

「…お前を避けてる訳じゃねえよ。」

「わかってる。わかってるよ。でも……たまには顔見せて欲しい。」

「……母さんも親父も、嫌がるだろ。俺がいたら。」

「嫌がってなんかないよ。心配してるよ。」

まっすぐな目で、真剣にそう言う明人に何も言えなくなる。
でも、俺には無理だ。

落ちこぼれた俺はもう親父や母さんの期待を背負うことはできない。
きっと、幻滅される。
それが、怖くて。否定されることが怖いから———。
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