「やっぱり、キミの育てたパフパフの実が1番美味しい。ケーキも、ボク好みの味だ。」

「勿体ないお言葉です。」

「ふむ…まあ、この味はボクのお気に入りだ。惑星スイッツは破壊しないでおいてあげるよ。」

「ありがとうございます！」

ビルス様にお出しするパフパフの実に関しては、栽培から調理まで全て私が行なっている。
私の実らせたパフパフの実の味を誰よりも引き出す事が出来るのは私以外にはいないからだ。

「次にボクが来た時もキミに調理を任せるとしよう。ウイス、帰るぞ。」

「またのお越しをお待ちしております！ビルス様！」

１つ、実をつまんで去っていく。






破壊神ビルス様はどんな美人にも靡かない。

私の記憶する限りビルス様が唯一目を輝かせるのは私の作ったパフパフの実やケーキを食べた時だけ。

『きっと、私だけがビルス様のあの眼差しを引き出すことができるんだ。』

そんな優越感を覚えながら、今日もビルス様の為に果実を愛でる。


いつか、ビルス様の向ける眼差しがこの果実から私に移り、特別になれる日が来るかもしれない。
いつか、ビルス様の隣にいる事を許される日が来るかもしれない。

そんな淡い幻想は、ある日唐突に崩れ去った。



その日、惑星スイッツにやってきたビルス様は女の子を連れていた。

居心地が悪そうに身を縮こませるその子を見て胸の奥が騒つく。

ビルス様がその子に向ける眼差しを見て、その不安が確信に変わるまでそう時間はかからなかった。

その眼差しに魅せられていた私だから、直ぐに分かってしまったのだ。

『あの子は、ビルス様の"お気に入り''なのだ』と。


……きっと、このワゴンカートの上に乗っているケーキの味を出すことは…ビルス様が『お気に入り』だと言ってくださった味の果実を育てることは、もう、出来ないだろう。

ビルス様がいつぞや私の育てた果実に向けていたものよりも、数倍の愛おしさを込めた眼差しで隣の彼女を見る。

私の入る余地なんて、これっぽっちもない。それでも…。

迫り上がってくる涙を押し込み、笑顔を貼り付けてビルス様に歩み寄る。

少しだけ…ほんの少しだけでいいから…

「お待たせいたしました！特製ケーキにございます！！」

ーーどうか私の実らせた"愛"にその眼差しを分けてください。