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刀剣乱舞 短編

どの本丸にも、ちょっとした問題児となる刀はいるものだ。
個体差というものもあるのである本丸で問題児となっている刀が他の本丸ではしっかり者なんてこともままある。
我が本丸の問題児は――へし切長谷部だった。
問題児、というのは言い過ぎかもしれないが、少々手がかかっているのが現実だ。
へし切長谷部といえば忠臣。主の命に従い、事務仕事を手伝い、戦場ではその機動を活かし活躍する。そんな刀であろう。
うちの長谷部も例には漏れない。
だが、困ったことに彼は忠臣というよりは忠犬……しかも、待ての出来ない犬だった。

例えば、事務仕事の途中、飲み物でも取ってこようかと席を立とうものならどこへ行くのか、自分を置いていくのかと騒ぎ立て、飲み物を取ってくるだけだよと言えば自分が持ってくるから座っていろという。

元々当番制だった近侍も、彼があれこれ理由をつけて最近はとうとう週に5日は長谷部が務めている。

彼にとって主命は、いかに主たる私に構ってもらえているかのステータスであり、加えて彼はなかなかの構ってちゃんだった。


「長谷部、清光と万事屋に行ってくるからお留守番よろしくね」
「そんな!主、置いていかないでください。主がいない、主命のない本丸で俺はどうしたらいいのですか」
この通りだ。
「お留守番してて。これが主命だよ」
「ぐっ……お待ち、しております」
本の1時間弱の外出ですら苦渋の決断のような顔をする。
始終構ってもらわないと生きていけないタイプなのだ。
中高生女子でよくいる、トイレまで友達と連れ立って行くタイプだ。そして彼は落ち込んでるアピールが非常にあからさまだ。
きっと帰る頃には執務室で膝を抱えて座っている。
仕方がない。何か甘いものでもお土産に買ってきてやろう。
「そうやって甘やかすから、いつまで経っても主離れ出来ないんだよ」
清光がじとっとした目で長谷部を見る。
初期刀の清光と、かなり初期に来てくれた長谷部は長い付き合いだ。その分、清光はちょっと長谷部に厳しい。
「もうちょっとさ、主も厳しくしてやんなきゃダメだよ。主だって自分の時間がひつようだし、長谷部に構ってばっかじゃ他のヤツらが拗ねるよ」
「清光とか?」
「そうそう、だから今日はちょっとゆっくり買い物してこよー」
おどけて聞くと、冗談のような口調で寄り道を提案してくる。
清光は、周りが良く見えてる。
長谷部には悪いけど、今日は少しゆっくりするのもいいかもしれない。


* * *

「ただいま~。遅くなってごめんね」
「お詫びにお団子買ってきたから食べてよ」
本丸に戻って早々、私と初期刀の帰りを待ちわびていた男士たちにお土産の団子を配り歩く。
しかし長谷部の姿が見当たらない。
「あれ、長谷部は?」
「あぁ、あいつな主たちが出かけてからずっと執務室に篭ってるぞ」
まさかの予感的中である。しかも出かけてからずっとときた。
これはだいぶいじけているぞ……。
「ありがとう。ちょっと見てくるね」
「おう。あいつ拗ねると長いから早く行ってやってくれ」
本丸のみんなも、もうだいぶ長谷部の構ってちゃんぶりに慣れて来てしまっている。


「長谷部~、いる?」
執務室を覗くと、案の定隅っこに白と藤色の塊がいる。
部屋の角に向かって、抱えた膝に額を埋めて、あきらかに”自分はいじけています”と主張してくる。

近くまで行き、傍にしゃがんで覗き込むようにしてもう一度話しかける。
「ただいま。遅くなってごめんね?」
返事がない。
「お土産にお団子買ってきたよ。食べよう」
返事がない。変わりに、ぐすっと鼻をすする音がした。泣いてる……。
見た目大人の男性にこれをやられると、正直ちょっぴり引いてしまう。だがうちの長谷部は残念なことにこれが通常運転だった。
「長谷部?」
根気よく声をかけると、ようやく小さく返事が聞こえてきた。
「あるじは……」
「うん」
「主は万屋に行ってくると言いました」
「そうだね」
「だからいつものように1時間と経たず帰ってくると思いこちらで待機していました」
私が出かけてからずっと体育座りで待機してたんだろうか……。思わず余計なことが頭をよぎるが、なんとか振り切って極力優しい口調で相槌をいれてやる。
「けれど1時間経っても、さらに30分たっても帰られず……ご無事かと心配致しました」
「ごめんね?」
「……」
「寂しかった?」
「…………はい」
たっぷり間を置いて、か細い返事が聞こえる。
「お団子一緒に食べよう」
「はい……」
本当に、うちの長谷部は手のかかる子だ。
「あの、主……」
「うん?どうしたの」
お茶を出そうと立ち上がったところで声をかけられ振り返ると、長谷部が見上げてくる。
「おかえりなさい。先程言いそびれてしまいましたので」
そう言って、まだ涙目のまま微笑むのを見ると、やはり私は彼を甘やかしてしまうのだった。
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