周りが大きいのが悪いんだ(望side)
身長なんて些末な問題だ、と望は思う。数センチの誤差で何かが変わるわけでなし、そこまで正確に申告する必要がどこにあるのかと。
うつむき加減で唇を噛む望の周りで「気にする事は無い」だとか、「お前にはお前の良さがある」だとか訳の分からない事をごちゃごちゃ言っているが、彼らはみな170cmを超えている。正直、勝者の余裕としか思えない。
「こりゃあ重症だねェ。なァ、お前さんからも何か言ってやんな」
先程頭を押さえつけられた龍之介は望から一定の距離を取りつつ、たった一人の一年生である秀虎に話題を振る。
一年生にしては長身の彼が望をじっと捉えてから軽く頷くと、黒いメッシュが混ざった金髪が少しだけ揺れた。
「それくらいがちょうどいいと思う。……小さくて」
「は?」
望本人も聞いた事の無い低い声。秀虎の最後の一言は、それを引き出すには十分すぎる威力を持ち合わせていた。
とはいえ彼の猫目は飴色にキラキラ輝いていて、とても悪気があるようには見えない。けれど例え純粋に褒め言葉として言ったのだとしても、望にとっては最大級のタブー、地雷なのだ。
知らなかったとはいえ、このような屈辱を味わわされて黙っているのも納得がいかない。ほんの仕置きくらいならばする権利があるだろう。
それならばと望は、警戒されないように今までで一番綺麗な笑顔を作ってみせた。
「虎くん、後で二人っきりで話しがあるから、一緒に来てくれる?」
「っ……! うす」
これから何をされるかも知らないで、金髪頭の一年生不良は頬を染めて小さく頷いた。
意外や意外、この中で最も望の逆鱗に触れたのは、望を心から慕う秀虎だったのだ。
【完】