周りが大きいのが悪いんだ(望side)

「気安く触らないでくれる? セクハラで訴えるよ」

 普段ならば考えられないが、この時ばかりは歯に衣着せぬ物言いで抗議する。何故なら相手は日頃から疎ましく思っている龍之介だからだ。

「相変わらず冷たいねェ」

 余裕綽々で意に介さない態度が余計に神経を逆撫でさせる。だからその頭髪の一部を指して謙也に詰め寄った。

「これ、このアンテナを見てください。これが目の錯覚を引き起こしているんですよ」

 龍之介の頭頂部には一束だけ、空に向かって伸びているような妙な癖毛がある。その長さの分、身長が上乗せされて見えるのではと指摘した。

「だから、これをっ、根元から折るか、引っこ抜けば……少しは!」

「痛ェ痛ェ!」

 押し付けた親指をぐりぐりと強く回せば、半強制的に俯く姿勢になった龍之介から悲鳴があがる。

「あれれぇ? なかなかしぶといなぁ」

 滅多に聞けない悲痛な叫びがなんとも愉快で、破顔を堪えきれず一人悦に入る。じゃあ次は引っ張ってみようか、と言った時点で止められたのが非常に残念だ。

「なぁ望、もし自分の身長がわかんねぇなら、ここで測ってみるか?」

 見かねた謙也が気遣うような声音で問うてくる。きっと良かれと思って言ったのだろう、その表情からは微塵の悪意も感じられない。
 だが、その提案は何もかもが的外れである。

「いえ、結構です」

 当然真顔で拒否。身長について追及される事がどれほど苦痛か、所詮高身長の人間には想像もつかない事なのだ。
 しかし龍之介を少々痛めつけた天罰が下ったのか、望にとっての拷問器具が隼人によって運ばれてきた。
 どうしてこんな絶妙なタイミングで、と突っ込めば隼人は眉一つ動かさないまま、面白そうな流れだったからと親指を立てたのだ。
 もうここまで来ては逃げられない。望は腹を括った。

「いいよ、もう。測ればいいんだろ、測れば!」

 半ばやけくそで身長計に立つと、年長者の謙也は「やっぱりか」と苦笑した。

「申告よりも6cm低いじゃねぇか」

「6cmじゃないです、5.8cmです」

 望は164cmではない。厳密には164.8cmだ。たったの0.8cmだとしても望にとってはかけがえのない大切な数字である。それを無いものとして扱われるのは非常に納得がいかない。

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