周りが大きいのが悪いんだ(望side)

 身長なんて些末な問題だ、と望は思う。

 九月某日、視聴覚室に望を含めて六人、突如集められて何事かと思えば、これに簡単なプロフィールを記入してくれと、風紀副委員長の謙也から用紙を一人一枚配られた。
 そこには血液型や利き腕などを書く欄が五つほど、言葉通り頭を使わずとも全て埋められる程度の質問しか無い。

「できたっすよー!」

「終わったぜェ」

 案の定、ものの一分もしないうちに書き終えていく者が続出。それに乗じて望も自然な流れで用紙を謙也に手渡した。

「よし、全員書けたな」

 そう言った風紀の筋肉枠……もとい謙也は何を思ったのか、全員分の回答を確認しはじめた。嫌な予感が全身を駆け巡る。

「小学生じゃあるまいし、チェックは不要ですよー」

 軽い調子で言い残し、さっさと席を立ちこの場を離れようと、ドアノブに手を掛けた時だった。

「望、ちょっと待て」

 背後から飛んできた声に思わず肩が跳ねて、体は石のように硬直した。ざわつく胸を押さえて恐る恐る振り返ると、唯一の三年生である謙也が有無を言わせない表情で手招きしていて、より増す緊張感に冷や汗が頬を伝う。

「なんですかぁ? 俺これでも忙しいので、手短にお願いしまーす」

 平静を保ちつつ謙也のそばへ寄ると、先程記入した用紙を見せられる。

「いやな、ここなんだけどさ……お前間違って書いてんのかと思ってさ」

 そう言ってちょうど身長の欄を指でトントン指して首を捻る謙也。彼の言い分はこうだ。

「望は170cmなんだよな? だとしたら一番身長が近い蘇芳とは5cmしか違わねぇって事になるんだわ。けど普段見てる感じだと、もう少し差があるような気ぃしてさ」

 ぎくり、その効果音が脳内から聞こえた気がした。気のせいですよ、と誤魔化そうとしたが、謙也は腑に落ちないというふうに自身の短髪を小さく掻き回し、あまつさえ龍之介までも呼び出して、いっぺん並んでみてくれ、とのたまう始末。
 それに対し龍之介は二つ返事で了承し、何やら嬉しそうに肩を寄せてくる。フワリと鼻腔をくすぐる香水の匂いや、長い睫毛が涙袋へ影を落とす情景が気に障り、素早く身を翻して距離を取った。

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