相手の好きなところを10個言わないと出られない部屋(蘇芳&柿原望Ver.)
突然の出来事に望と龍之介は困惑していた。壁も天井も床すら真っ白な部屋で二人きり。他は何も無い。強いて挙げるなら唯一の出入り口であるドアと、その上に掛けられたパネルのみ。
「えーっとォ……“お互いの好きなところを10個言ったら出られる部屋”だと。ンだそりゃ」
パネルの文字を読み上げた龍之介は呆れ混じりに鼻で笑う。ただのイタズラだ、そう思ってドアノブに手をかけた。しかし鍵がかかっているのか押しても引いても開く気配はない。
「あァ? 監禁たァ上等じゃねェか」
薄く笑った龍之介の眉毛がピクリと動く。と同時に目にも止まらぬ速さでドアを蹴り、空っぽな部屋に衝撃音を響かせた。金属製だったが少しへこんだ。
「お、案外脆いなコイツ。何回か蹴ったらぶっ壊せンぞ」
拍子抜けしつつ再度蹴りを入れようとした時、すかさず望が制止した。
「やめなよ野蛮だなぁ。どうして君たちはいつもそうやって物を破壊したがるの? 備品だってタダじゃないんですけど?」
「え……でもよォ、コレは俺らを監禁してる奴のモンだろ? ンなの木っ端微塵にしちまった方がよくねェかァ?」
「よくねぇですよ。後で請求とかややこしいことされたらどうするの? 君の懐が痛むのは一向に構わないけれど、俺まで巻き込まれる可能性が1%でもあるなら容認できないね」
はぁ……と、わざとらしくため息をついた望は腰に手を当ててドアの上のパネルを指さした。
「その代わりにね、このふざけた命令に従うのはアリだよ。お互いの好きなところを10個言えば出られるなんて意味不明だけど、言葉だけで解決するならコスパいいからね。それで出られなかったらドアを破壊するなり首謀者を血祭りにあげるなり好きにすれば?」
「……おう」
龍之介はあっさり引き下がり大人しく頷いた。望の冷静な判断に納得したというのもあるが、それ以上に彼の冷ややかな声色に嫌な寒気を感じたというのが大きい。
特に後半の言葉にはドス黒い憎悪が込められている気がした。彼も本音ではこの状況を好ましく思っていないのだろう。
「よし、わかった! ンじゃ望のいいとこ言っていきゃあいンだな? 余裕じゃねェか! 10個どころか100個くらい言ってやンぜェ!」
「あ、10個でいいんで。ドヤってないでさっさとしてくださぁーい」
望の冷めた目はいつもの事とスルーして、龍之介は得意げに鼻を鳴らして指折り数えて一個ずつ丁寧に挙げていく。
「えっとなァ……いつも一歩引いた所から物事を見つめてるとこ。人と仲良くなるのが上手いとこ。場の空気を柔らかくすンのが上手いとこ。料理が上手いとこ。実は努力家なとこ。笑顔が可愛いとこ。たまにスッゲェ度胸あるとこ。なんだかんだで優しいとこ。細かい気配りできるとこ。面倒見もいいとこ。あとは──」
「あっ、はい、10個達成おめでとう。次は俺だねー」
「あっ、ちょ、待てよ望ゥ……まだお前さんのいいとこあるんだぜェ? 言い足りねェよー」
「そうなんだーへー。悪いけど君の“えっとなァ……”から先は聞いてなかったし、その先も聞く気は無いから続けても時間の無駄なんだよねぇ。てことで次は俺ね」
「えーっとォ……“お互いの好きなところを10個言ったら出られる部屋”だと。ンだそりゃ」
パネルの文字を読み上げた龍之介は呆れ混じりに鼻で笑う。ただのイタズラだ、そう思ってドアノブに手をかけた。しかし鍵がかかっているのか押しても引いても開く気配はない。
「あァ? 監禁たァ上等じゃねェか」
薄く笑った龍之介の眉毛がピクリと動く。と同時に目にも止まらぬ速さでドアを蹴り、空っぽな部屋に衝撃音を響かせた。金属製だったが少しへこんだ。
「お、案外脆いなコイツ。何回か蹴ったらぶっ壊せンぞ」
拍子抜けしつつ再度蹴りを入れようとした時、すかさず望が制止した。
「やめなよ野蛮だなぁ。どうして君たちはいつもそうやって物を破壊したがるの? 備品だってタダじゃないんですけど?」
「え……でもよォ、コレは俺らを監禁してる奴のモンだろ? ンなの木っ端微塵にしちまった方がよくねェかァ?」
「よくねぇですよ。後で請求とかややこしいことされたらどうするの? 君の懐が痛むのは一向に構わないけれど、俺まで巻き込まれる可能性が1%でもあるなら容認できないね」
はぁ……と、わざとらしくため息をついた望は腰に手を当ててドアの上のパネルを指さした。
「その代わりにね、このふざけた命令に従うのはアリだよ。お互いの好きなところを10個言えば出られるなんて意味不明だけど、言葉だけで解決するならコスパいいからね。それで出られなかったらドアを破壊するなり首謀者を血祭りにあげるなり好きにすれば?」
「……おう」
龍之介はあっさり引き下がり大人しく頷いた。望の冷静な判断に納得したというのもあるが、それ以上に彼の冷ややかな声色に嫌な寒気を感じたというのが大きい。
特に後半の言葉にはドス黒い憎悪が込められている気がした。彼も本音ではこの状況を好ましく思っていないのだろう。
「よし、わかった! ンじゃ望のいいとこ言っていきゃあいンだな? 余裕じゃねェか! 10個どころか100個くらい言ってやンぜェ!」
「あ、10個でいいんで。ドヤってないでさっさとしてくださぁーい」
望の冷めた目はいつもの事とスルーして、龍之介は得意げに鼻を鳴らして指折り数えて一個ずつ丁寧に挙げていく。
「えっとなァ……いつも一歩引いた所から物事を見つめてるとこ。人と仲良くなるのが上手いとこ。場の空気を柔らかくすンのが上手いとこ。料理が上手いとこ。実は努力家なとこ。笑顔が可愛いとこ。たまにスッゲェ度胸あるとこ。なんだかんだで優しいとこ。細かい気配りできるとこ。面倒見もいいとこ。あとは──」
「あっ、はい、10個達成おめでとう。次は俺だねー」
「あっ、ちょ、待てよ望ゥ……まだお前さんのいいとこあるんだぜェ? 言い足りねェよー」
「そうなんだーへー。悪いけど君の“えっとなァ……”から先は聞いてなかったし、その先も聞く気は無いから続けても時間の無駄なんだよねぇ。てことで次は俺ね」