みっちゃんと僕
みっちゃんは一瞬僕たちを見て、それから悪い人たちを強い眼で睨む。
「小学生相手に高校生が寄ってたかって恥ずかしくねぇのかよ」
「あ? なんだよチビのくせに。つーかその制服うちの学校のじゃねぇか。てことは一年か?」
悪い人たちは馬鹿にするようにゲラゲラ笑った。確かにみっちゃんはこの人たちよりずっと背が低い。僕は少し怖くなった。たった一人で立ち向かって怪我でもしたら……って。
でもみっちゃんは怒った顔を崩さない。一番体の大きな人がニヤニヤしながら目の前に来ても、一歩も退かずに強気な顔で睨み上げている。
「おい一年、人に説教する前に先輩に対する礼儀を学んだほうがいいんじゃねぇか?」
「は? 先輩? 敬う価値もねぇお前らが? 子供に群がる雑魚のくせに先輩ヅラしてんじゃねぇよ」
みっちゃんが鼻で笑ってここぞとばかりに怒らせるようなことを言うから、悪い人たちは一気に不機嫌な顔をした。目の前にいる大きな人は額に青筋を浮かべて、みっちゃんの胸ぐらを乱暴に掴んで拳を振り上げる。
「一年がいい気になってんじゃねぇぞ!」
「みっちゃん……っ!」
喉が潰れるくらいの声で叫んだ瞬間──みっちゃんは歯を食いしばって軽く仰け反って、大きな人の鼻へ勢いよく頭突きした。
「ぁぐッ……!!」
声にならない声をあげて鼻から血を吹き出してよろけた大きな人。ボタボタと落ちる血がアスファルトを汚していくのが怖くて、僕は思わず目をそらした。
だけどみっちゃんは止まらない。一瞬の隙に手に持っている重そうな鞄で顔を思い切り殴り飛ばすと、大きな人はついに膝をついた。
「どーだ! 辞書二冊分っ、だぜ!」
言いながらトドメにもう一撃。大きな人は道の真ん中で倒れ込んで、血で真っ赤な顔を歪めて苦しそうに呻き声をあげている。
「マジかよ……」
「なんだよアイツ……」
他の悪い人たちはすっかり青ざめて静かになった。みっちゃんが睨みつけると、ブツブツ何か文句を言ったり舌打ちしながら大きな人を引き摺って逃げていく。
「ははっ、最後までダッセェ奴ら。ああやって群れてる奴らは頭がやられた途端にビビるんだよなぁー」
「あたま……?」
「リーダーってこと」
ニカッと笑うみっちゃん。だけど次の瞬間には頭を抱えて座り込んだ。どうしたんだろう。
「みっちゃん……大丈夫?」
「いっ……てぇ……! 遅れてから痛みが来やがった……! 頭突きなんて初めてやったよ! やる側もダメージ受けるとか聞いてねぇし! 絶対たんこぶできる! もう二度とやんねーっ!」
足をバタバタさせてちょっぴり涙を流して暴れてる。痛そうだけど元気そうでよかった。
「え……えへへ……へへ」
僕はなんだかホッとして、笑いながら泣いた。友達もつられて泣いちゃったから、みっちゃんは慌てて僕たちの怪我の具合を訊いてくる。
違うんだよみっちゃん、もちろん怪我したところは痛いけど、僕たちはそのせいで泣いてるんじゃないんだ。助かってよかった、みっちゃんありがとうって思ってるんだよ。
「あり……がと、みっぢゃん……」
みっちゃんは僕のヒーローだ。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった僕たちを優しく抱き締めてくれて、久しぶりに手を繋いでくれた。
ずっと避けててごめんね、僕が言うとみっちゃんは気にしてないよって笑ってて、でも……
「でも、ちょっと寂しかったかもな」
そう言ってくれたことがちょっぴり嬉しかった。ごめんねみっちゃん、僕も凄く寂しかったんだ。だからこれからはずっと一緒にいてくれる? 8つも歳が離れてる僕だけど、まだまだ子供な僕だけど、頑張って格好良いお兄さんになるから。だから──
「──俺さ、引っ越すことになったんだ」
──だから、そんなこと言わないで。
「……え? 今、なんて……言った、の」
悪い人達の一件からしばらく経ったある日、みっちゃんとの帰り道でポツリと知らされた僕は頭が真っ白になった。
「小学生相手に高校生が寄ってたかって恥ずかしくねぇのかよ」
「あ? なんだよチビのくせに。つーかその制服うちの学校のじゃねぇか。てことは一年か?」
悪い人たちは馬鹿にするようにゲラゲラ笑った。確かにみっちゃんはこの人たちよりずっと背が低い。僕は少し怖くなった。たった一人で立ち向かって怪我でもしたら……って。
でもみっちゃんは怒った顔を崩さない。一番体の大きな人がニヤニヤしながら目の前に来ても、一歩も退かずに強気な顔で睨み上げている。
「おい一年、人に説教する前に先輩に対する礼儀を学んだほうがいいんじゃねぇか?」
「は? 先輩? 敬う価値もねぇお前らが? 子供に群がる雑魚のくせに先輩ヅラしてんじゃねぇよ」
みっちゃんが鼻で笑ってここぞとばかりに怒らせるようなことを言うから、悪い人たちは一気に不機嫌な顔をした。目の前にいる大きな人は額に青筋を浮かべて、みっちゃんの胸ぐらを乱暴に掴んで拳を振り上げる。
「一年がいい気になってんじゃねぇぞ!」
「みっちゃん……っ!」
喉が潰れるくらいの声で叫んだ瞬間──みっちゃんは歯を食いしばって軽く仰け反って、大きな人の鼻へ勢いよく頭突きした。
「ぁぐッ……!!」
声にならない声をあげて鼻から血を吹き出してよろけた大きな人。ボタボタと落ちる血がアスファルトを汚していくのが怖くて、僕は思わず目をそらした。
だけどみっちゃんは止まらない。一瞬の隙に手に持っている重そうな鞄で顔を思い切り殴り飛ばすと、大きな人はついに膝をついた。
「どーだ! 辞書二冊分っ、だぜ!」
言いながらトドメにもう一撃。大きな人は道の真ん中で倒れ込んで、血で真っ赤な顔を歪めて苦しそうに呻き声をあげている。
「マジかよ……」
「なんだよアイツ……」
他の悪い人たちはすっかり青ざめて静かになった。みっちゃんが睨みつけると、ブツブツ何か文句を言ったり舌打ちしながら大きな人を引き摺って逃げていく。
「ははっ、最後までダッセェ奴ら。ああやって群れてる奴らは頭がやられた途端にビビるんだよなぁー」
「あたま……?」
「リーダーってこと」
ニカッと笑うみっちゃん。だけど次の瞬間には頭を抱えて座り込んだ。どうしたんだろう。
「みっちゃん……大丈夫?」
「いっ……てぇ……! 遅れてから痛みが来やがった……! 頭突きなんて初めてやったよ! やる側もダメージ受けるとか聞いてねぇし! 絶対たんこぶできる! もう二度とやんねーっ!」
足をバタバタさせてちょっぴり涙を流して暴れてる。痛そうだけど元気そうでよかった。
「え……えへへ……へへ」
僕はなんだかホッとして、笑いながら泣いた。友達もつられて泣いちゃったから、みっちゃんは慌てて僕たちの怪我の具合を訊いてくる。
違うんだよみっちゃん、もちろん怪我したところは痛いけど、僕たちはそのせいで泣いてるんじゃないんだ。助かってよかった、みっちゃんありがとうって思ってるんだよ。
「あり……がと、みっぢゃん……」
みっちゃんは僕のヒーローだ。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった僕たちを優しく抱き締めてくれて、久しぶりに手を繋いでくれた。
ずっと避けててごめんね、僕が言うとみっちゃんは気にしてないよって笑ってて、でも……
「でも、ちょっと寂しかったかもな」
そう言ってくれたことがちょっぴり嬉しかった。ごめんねみっちゃん、僕も凄く寂しかったんだ。だからこれからはずっと一緒にいてくれる? 8つも歳が離れてる僕だけど、まだまだ子供な僕だけど、頑張って格好良いお兄さんになるから。だから──
「──俺さ、引っ越すことになったんだ」
──だから、そんなこと言わないで。
「……え? 今、なんて……言った、の」
悪い人達の一件からしばらく経ったある日、みっちゃんとの帰り道でポツリと知らされた僕は頭が真っ白になった。