幼少期の柿原兄弟とペンギンさん

 今から十数年前、幼い柿原兄弟は両親に連れられ水族館へやって来た。群れをなす小魚の迫力、そして巨大魚が悠々と泳ぐ姿に圧倒された二人は互いの手をしっかり握って水槽を見上げる。
 中でも惹かれたのはペンギンたちだ。涼しげな人工の氷山でよちよち歩いている姿は愛らしく、水中では機敏に飛び回っているように見える姿は雄々しかった。

「ちいさいあかちゃんペンギンさんかわいいー。ね、あゆむ」

「おおきいあかちゃんペンギンさんかわいいー。ね、のぞむ」

 一口にペンギンといっても雛鳥が親鳥の足元に収まるほど小さい種類もいれば、雛鳥が親鳥より大きく見える種類もいて見る者を飽きさせない。
 ペンギンのコーナーに足を止めてからの二人は他の水槽には目もくれずその場に留まっていたが、見かねた両親に小さな手を引かれてお土産売り場へ。

 どれがいい? と聞く母に幼い双子は声を揃えてペンギンさんがいい! と、全く同じぬいぐるみを抱き上げ、互いに顔を合わせてくすくす笑う。
 大好きなペンギンのぬいぐるみ、それを一人一つずつ買ってもらえたのがとても嬉しくて、ぷっくりした頬を赤く染めながらお揃いのペンギンに頬擦りした。

「あゆむとおなじペンギンさん、これからずっといっしょだね」

「のぞむとおなじペンギンさん、これからいっぱいあそぼうね」

 小さな双子の小さな手でペンギンを向き合わせて、ペンギン同士が会話しているようにぴょんぴょん動かす“ペンギンごっこ”
 いつからか「ペンギンごっこしよう」が二人の合言葉になっていく。

 昼は習い事の合間を縫って遊び、どこへ行くにも抱っこして連れて行った。そして夜は一つのベッドで二人と二匹で身を寄せ合って眠り、夢の中で遊んだ。

 ある夏の日、いつものようにペンギンを抱っこして買い物へ行った帰り。百貨店の駐車場は蒸し暑くて立っているだけでも汗が幼い体を湿らせた。
 その時、兄の望がふと零す。

「ペンギンさん、あついかな?」

 その言葉に弟の歩はハッとして自分のペンギンを見つめた。父によると、ペンギンは寒い所に住んでいるのだとか。ということは暑い場所は苦手なのでは──隣の望も同じ事を考えている。二人は目を合わせて頷いた。

 帰宅途中の車の中でペンギンたちを団扇で扇ぎ、家に帰るなりキッチンへ駆け出して大きな冷蔵庫を二人がかりで開けて、そして──

「ここにいればすずしいよね、あゆむ」

「ペンギンさんあんしんだね、のぞむ」

 二匹のペンギンを仲良く並べて冷蔵庫の扉を閉めた。


【完】
1/1ページ
スキ