ハロウィン2018
灼熱の季節を乗り越えて、待ちわびた涼やかな風がむしろ肌寒く感じる今日この頃。ここ東雲学園高等学校では、この日だけに見られる特殊なやり取りがあちこちで行われていた。
「トリック・オア・トリート!」
その言葉が軽やかに飛び交い、菓子類が行き交う光景は、イベント好きな男子生徒達には堪らない浮ついた色に染まっている。
そしてそれは望も例外では無く、紙製の手提げ袋を下げて弾む足取りで廊下を闊歩。一歩進む度に色素の薄い癖毛をふわりと踊らせつつ向かったのは風紀室だ。
「こんにちはー。トリック・オア・トリートですよ先輩ー」
たった一人で机に向かっている体格の良い人影を確認するや否や、挨拶もそこそこに砕けた口調でお決まりの台詞を投げかけた。
正直キーボードを叩くよりもサンドバッグを殴り飛ばしている方がしっくりくる風貌の上級生──水樹謙也の切れ長の目がこちらへ向き、親しみを感じる笑顔で迎えられる。
「望か。今年も来ると思ったぜー」
幼子を迎えるような手招きに小走りで駆け寄って、紙袋からラッピングした焼き菓子を一つ取り出した。
「カボチャ入りマフィンです。昨年と同様手作りしてみましたー」
ジャック・オ・ランタンの顔を描いたそれを手渡せば謙也は苦笑し、言ったお前が寄越してくんのかよと首を捻る。
「こういうシステムだっけか?」
「いいんですよ、こういうのはノリです」
都会の街中の方がもっとカオスですよと付け加えれば、テレビか何かで目にした光景を思い出したのだろう、納得したように笑い混じりで数回頷いた。
そんな謙也が何やらブレザーのポケットをゴソゴソ探りはじめたから、きっと彼も事前に何か用意していたのだろう。
それなら俺からも、とまさぐり出してきたのは、どこにでもある小さな棒付きキャンディだった。
「ありゃ意外」
仮にも風紀委員である彼から菓子類のやり取りが行われた事にも驚いたが、それよりも面食らったのは、筋肉を肥大させる事しか興味が無いだろうと思っていた謙也から飴が出てきた事である。
「てっきりプロテインか茹でたササミが出てくると思っていたのに……」
「お前、俺の事喋る筋肉だと思ってんだろ」
違うんですか? とわざとらしく目を開けば、重量感のある手の平が頭にずしりと乗せられた。
「望は肉より甘いもんがいいだろ」
彼の頼もしい手で頭を大きく優しげに撫で回されたのだった。
「トリック・オア・トリート!」
その言葉が軽やかに飛び交い、菓子類が行き交う光景は、イベント好きな男子生徒達には堪らない浮ついた色に染まっている。
そしてそれは望も例外では無く、紙製の手提げ袋を下げて弾む足取りで廊下を闊歩。一歩進む度に色素の薄い癖毛をふわりと踊らせつつ向かったのは風紀室だ。
「こんにちはー。トリック・オア・トリートですよ先輩ー」
たった一人で机に向かっている体格の良い人影を確認するや否や、挨拶もそこそこに砕けた口調でお決まりの台詞を投げかけた。
正直キーボードを叩くよりもサンドバッグを殴り飛ばしている方がしっくりくる風貌の上級生──水樹謙也の切れ長の目がこちらへ向き、親しみを感じる笑顔で迎えられる。
「望か。今年も来ると思ったぜー」
幼子を迎えるような手招きに小走りで駆け寄って、紙袋からラッピングした焼き菓子を一つ取り出した。
「カボチャ入りマフィンです。昨年と同様手作りしてみましたー」
ジャック・オ・ランタンの顔を描いたそれを手渡せば謙也は苦笑し、言ったお前が寄越してくんのかよと首を捻る。
「こういうシステムだっけか?」
「いいんですよ、こういうのはノリです」
都会の街中の方がもっとカオスですよと付け加えれば、テレビか何かで目にした光景を思い出したのだろう、納得したように笑い混じりで数回頷いた。
そんな謙也が何やらブレザーのポケットをゴソゴソ探りはじめたから、きっと彼も事前に何か用意していたのだろう。
それなら俺からも、とまさぐり出してきたのは、どこにでもある小さな棒付きキャンディだった。
「ありゃ意外」
仮にも風紀委員である彼から菓子類のやり取りが行われた事にも驚いたが、それよりも面食らったのは、筋肉を肥大させる事しか興味が無いだろうと思っていた謙也から飴が出てきた事である。
「てっきりプロテインか茹でたササミが出てくると思っていたのに……」
「お前、俺の事喋る筋肉だと思ってんだろ」
違うんですか? とわざとらしく目を開けば、重量感のある手の平が頭にずしりと乗せられた。
「望は肉より甘いもんがいいだろ」
彼の頼もしい手で頭を大きく優しげに撫で回されたのだった。
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