一章
俺は涼太 、どこにでもいる普通の高校一年生だ。名前と一人称でわかるだろうけど一応男子。
そんな俺は最近ストーカー被害にあっている。
常に背後から人の気配がしたり、下駄箱に怪しい手紙やプレゼントが入ってたり、使用済みストローなどのゴミがいつの間にか消えてたり……と、まぁこの辺は序の口、よく聞く話だろう。
さっきも下駄箱に薔薇の花束と手作りっぽいウサギの縫いぐるみと手紙とチョコレート菓子が突っ込まれていたので、花束と縫いぐるみはごみ箱へぶちこんで、いまどき珍しいハートのシールが貼られている手紙もいつも通り破り捨てた。奇跡的にお菓子は手作りではなく既製品だったのでありがたく頂戴した。ポッ〇ーうめぇ。
すっかり手慣れたもんだ、なにしろこれで14日目だからな。しかしちょうどその場に居合わせている生徒達は、涼しい顔をしている俺をドン引きしながら見ていた。そりゃそうだ、慣れているとはいえストーカーからの贈り物を躊躇なく捨てたんだから。
俗に言うストーカーの怖いところは犯人が特定しにくいところと、相手が何をしてくるか予想出来ないところにある。逆上させるなんてもってのほかだ。そんな危ない奴に対してこんな雑な対応をするのはよっぽどの馬鹿か怖いもの知らずだけ。
だけど俺は大丈夫、犯人はわかっているし何をしてくるかも大体予想できる。
「あ、涼太おはよー!」
教室に入るや否や例のストーカーは、その金髪と同じくらい明るい笑顔で挨拶してきた。
そう、このストーカーと俺は同級生、しかも同じクラスなのだ。
「おはよ…。」
相手はストーカーだけど一応人間だし一応クラスメートだから挨拶くらいは返す。
さて、このストーカー、名前は康平 という。無造作にセットされた金髪と着崩した制服、そして鍛え上げられている筋肉から察するに昔ヤンチャしてた系男子だろう。
ここで一つ確認しておくが俺はれっきとした男子だ、そしてここは男子校、そしてここにいる康平も男子。
男が男にストーカーってお前……。
「あれ? 涼太、花束と縫いぐるみは? 下駄箱にあったろ。まさか忘れたのか? まったく、涼太はうっかり屋さんだなぁー。」
康平は気さくに笑って俺の肩を突っついてくるが無視。この人懐っこい笑顔に騙されてはいけない、こいつは元ヤンで現ストーカーだ。
なんか「可愛い」だの「好き」だの訳のわからんことをごちゃごちゃ言ってるが無視して自分の席につくが、康平はお構いなしに隣の席に腰掛ける。
そうだ、こいつ隣の席だった……。虚ろな目をしてため息をついた。
本来ならもう少し離れた席の筈なんだけど、ある日突然こいつは俺の隣にやってきた。始業式当日時点で俺の隣にいた奴はそれまで康平が使っていた席に移動している、十中八九脅されたに違いない。
それを考えると間近で見つめてくる康平の熱い視線がより恐ろしく感じる。狂気だ狂気。
「なぁなぁ涼太。」
なるべく目を合わさないようにしている俺の気持ちなんて康平にとっては大した問題ではない、お構いなしに話し掛けてくる。
「昨日の9時頃お前が観てた番組俺も観てたんだけどさ、あれ面白いなー。あの芸人がさー……」
確かに昨日の夜、俺はその番組を観ていた。だがそれを知ってるのは俺の家族だけのはず、って事はまた盗聴しやがったなこいつ。軽く睨んで威嚇してみたが、勘違い馬鹿は“あっ目があった!”と言わんばかりの嬉しそうな顔。残念ながら体格のいい男にそんな可愛い反応されてもまっっったく嬉しくないんで。
「そんでさー、ウサギの赤ちゃんが出たろ? あんとき涼太がウサギ可愛いって言ってたから俺頑張って作ったんだぜ!」
得意気に親指で自分を指す康平。
まさかあの下駄箱に入ってたウサギの縫いぐるみ、一晩で作り上げたのか。それはそれですげぇけど、その執念が心底気持ち悪い。
「喜んでくれると思ったんだけどなぁー」と残念がる康平にこれでもかというほど冷たい目を向けてやる。
「手作りのウサギの縫いぐるみで喜ぶわけねぇだろ女子じゃあるまいし。それにお前の手作りは全部いらねぇ。」
「なんで? ……あーそっか、涼太は手作りは重いって感じるタイプか、なるほど!」
そういうことじゃねぇし、なるほどじゃねぇよ。
わかってねぇみたいだから親切な俺は教えてやることにした。
「あのさ、お前の手作りって必ず何か変なの入ってんだろ、俺はそれが嫌なの気持ち悪いの。わかる?」
「えっ!? 何か入ってんの嫌なの!?」
何で驚いてんだよこっちがビックリだわ。
「……ちなみに今回は何入れてやがった。」
「ボイスレコーダー。後で回収して録音された涼太の声をじっくり堪能するために仕込んでみた。」
「そっか……。」
捨ててよかった……。俺は穏やかに微笑みそう思った。
……が、どうやら神は俺の味方ではないらしい、おもむろに教室に入ってきたクラスメートは俺を見つけると真っ直ぐこちらへ向かってきた。……あのウサギの縫いぐるみを持って。
「涼太ぁー、さっきお前がこれ捨ててんの見掛けたんだけどさ、これ手作りだろ? さすがに手作りは捨てちゃいかんよ、心込もってんだから。」
「余計な心遣いどうもありがとう。」
引きつった笑顔でトゲのある礼を言ったが、空気の読めないクラスメートは悪びれる様子もなく呪いのウサギを俺に手渡し、康平とヘラヘラ手を振りあっていた。フワフワの生地で作られたウサギの胴体を掴むと、不自然に固い異物感があり泣きたくなる。
しかしこの縫いぐるみの皮を被ったボイスレコーダー、言葉にするだけでもおぞましい代物だが、それを抜きにしてただの縫いぐるみとして見てみるとなかなか可愛らしい。たぶん女子なら喜ぶ。
正直、男が一晩でちゃちゃっと作ったとは思えないほど綺麗な出来映えで、首にリボンなんか巻いたりして無駄に可愛い見た目なのが腹立つ。
だけどね、これはボイスレコーダーですから。
いくら康平の手先が器用だからって俺にメリット無いし、むしろストーカー行為の幅が広がるだけでデメリットだらけだし。てなわけでこの悪魔の縫いぐるみは丁重にお返しようか。
「はい康平、この子はお前という名の故郷に帰りたがってるから返すわ。大切に育ててやんな。」
「おー。」
康平はやや不満げだったが、わりと素直に縫いぐるみを受け取って苦笑した。
「ま、手作り苦手なら仕方ねぇか。」
それ以前の問題だよ馬鹿野郎。
「あのな、それ以前にボイスレコーダーとか色々変なもん仕込むなって言ってんだよ。」
「はいはい悪かったって、今回はさすがに俺も反省したわ。」
「へっ!?」
何気なくさらりと言われた一言に俺は耳を疑った、かれこれストーカーされること14日、一度も自分の非を認めたことがなかった康平が反省しただと?
ハッキリ言ってやれば人は変わるんだ……としみじみしていると、康平は自作のウサギを優しく撫でながら呟いた。
「どうせ仕込むなら朝の下駄箱じゃなく、下校中の涼太の鞄にこっそり入れておくべきだった。そしたら涼太のプライベートボイスがたっぷり録れたのに……。迂闊だった……。」
「反省する所そこかよおい。」
迂闊だった……じゃねぇよ。
やっぱりストーカーはストーカーだ、まともな思考回路なんて無い。つーか俺の話なんてこれっぽっちも聞いてなかった。
あぁ、頭が痛い……。俺は頭を抱えてうなだれた。
そもそもどうして康平はここまで執拗に俺を追い回すようになったんだっけ…。
そんな俺は最近ストーカー被害にあっている。
常に背後から人の気配がしたり、下駄箱に怪しい手紙やプレゼントが入ってたり、使用済みストローなどのゴミがいつの間にか消えてたり……と、まぁこの辺は序の口、よく聞く話だろう。
さっきも下駄箱に薔薇の花束と手作りっぽいウサギの縫いぐるみと手紙とチョコレート菓子が突っ込まれていたので、花束と縫いぐるみはごみ箱へぶちこんで、いまどき珍しいハートのシールが貼られている手紙もいつも通り破り捨てた。奇跡的にお菓子は手作りではなく既製品だったのでありがたく頂戴した。ポッ〇ーうめぇ。
すっかり手慣れたもんだ、なにしろこれで14日目だからな。しかしちょうどその場に居合わせている生徒達は、涼しい顔をしている俺をドン引きしながら見ていた。そりゃそうだ、慣れているとはいえストーカーからの贈り物を躊躇なく捨てたんだから。
俗に言うストーカーの怖いところは犯人が特定しにくいところと、相手が何をしてくるか予想出来ないところにある。逆上させるなんてもってのほかだ。そんな危ない奴に対してこんな雑な対応をするのはよっぽどの馬鹿か怖いもの知らずだけ。
だけど俺は大丈夫、犯人はわかっているし何をしてくるかも大体予想できる。
「あ、涼太おはよー!」
教室に入るや否や例のストーカーは、その金髪と同じくらい明るい笑顔で挨拶してきた。
そう、このストーカーと俺は同級生、しかも同じクラスなのだ。
「おはよ…。」
相手はストーカーだけど一応人間だし一応クラスメートだから挨拶くらいは返す。
さて、このストーカー、名前は
ここで一つ確認しておくが俺はれっきとした男子だ、そしてここは男子校、そしてここにいる康平も男子。
男が男にストーカーってお前……。
「あれ? 涼太、花束と縫いぐるみは? 下駄箱にあったろ。まさか忘れたのか? まったく、涼太はうっかり屋さんだなぁー。」
康平は気さくに笑って俺の肩を突っついてくるが無視。この人懐っこい笑顔に騙されてはいけない、こいつは元ヤンで現ストーカーだ。
なんか「可愛い」だの「好き」だの訳のわからんことをごちゃごちゃ言ってるが無視して自分の席につくが、康平はお構いなしに隣の席に腰掛ける。
そうだ、こいつ隣の席だった……。虚ろな目をしてため息をついた。
本来ならもう少し離れた席の筈なんだけど、ある日突然こいつは俺の隣にやってきた。始業式当日時点で俺の隣にいた奴はそれまで康平が使っていた席に移動している、十中八九脅されたに違いない。
それを考えると間近で見つめてくる康平の熱い視線がより恐ろしく感じる。狂気だ狂気。
「なぁなぁ涼太。」
なるべく目を合わさないようにしている俺の気持ちなんて康平にとっては大した問題ではない、お構いなしに話し掛けてくる。
「昨日の9時頃お前が観てた番組俺も観てたんだけどさ、あれ面白いなー。あの芸人がさー……」
確かに昨日の夜、俺はその番組を観ていた。だがそれを知ってるのは俺の家族だけのはず、って事はまた盗聴しやがったなこいつ。軽く睨んで威嚇してみたが、勘違い馬鹿は“あっ目があった!”と言わんばかりの嬉しそうな顔。残念ながら体格のいい男にそんな可愛い反応されてもまっっったく嬉しくないんで。
「そんでさー、ウサギの赤ちゃんが出たろ? あんとき涼太がウサギ可愛いって言ってたから俺頑張って作ったんだぜ!」
得意気に親指で自分を指す康平。
まさかあの下駄箱に入ってたウサギの縫いぐるみ、一晩で作り上げたのか。それはそれですげぇけど、その執念が心底気持ち悪い。
「喜んでくれると思ったんだけどなぁー」と残念がる康平にこれでもかというほど冷たい目を向けてやる。
「手作りのウサギの縫いぐるみで喜ぶわけねぇだろ女子じゃあるまいし。それにお前の手作りは全部いらねぇ。」
「なんで? ……あーそっか、涼太は手作りは重いって感じるタイプか、なるほど!」
そういうことじゃねぇし、なるほどじゃねぇよ。
わかってねぇみたいだから親切な俺は教えてやることにした。
「あのさ、お前の手作りって必ず何か変なの入ってんだろ、俺はそれが嫌なの気持ち悪いの。わかる?」
「えっ!? 何か入ってんの嫌なの!?」
何で驚いてんだよこっちがビックリだわ。
「……ちなみに今回は何入れてやがった。」
「ボイスレコーダー。後で回収して録音された涼太の声をじっくり堪能するために仕込んでみた。」
「そっか……。」
捨ててよかった……。俺は穏やかに微笑みそう思った。
……が、どうやら神は俺の味方ではないらしい、おもむろに教室に入ってきたクラスメートは俺を見つけると真っ直ぐこちらへ向かってきた。……あのウサギの縫いぐるみを持って。
「涼太ぁー、さっきお前がこれ捨ててんの見掛けたんだけどさ、これ手作りだろ? さすがに手作りは捨てちゃいかんよ、心込もってんだから。」
「余計な心遣いどうもありがとう。」
引きつった笑顔でトゲのある礼を言ったが、空気の読めないクラスメートは悪びれる様子もなく呪いのウサギを俺に手渡し、康平とヘラヘラ手を振りあっていた。フワフワの生地で作られたウサギの胴体を掴むと、不自然に固い異物感があり泣きたくなる。
しかしこの縫いぐるみの皮を被ったボイスレコーダー、言葉にするだけでもおぞましい代物だが、それを抜きにしてただの縫いぐるみとして見てみるとなかなか可愛らしい。たぶん女子なら喜ぶ。
正直、男が一晩でちゃちゃっと作ったとは思えないほど綺麗な出来映えで、首にリボンなんか巻いたりして無駄に可愛い見た目なのが腹立つ。
だけどね、これはボイスレコーダーですから。
いくら康平の手先が器用だからって俺にメリット無いし、むしろストーカー行為の幅が広がるだけでデメリットだらけだし。てなわけでこの悪魔の縫いぐるみは丁重にお返しようか。
「はい康平、この子はお前という名の故郷に帰りたがってるから返すわ。大切に育ててやんな。」
「おー。」
康平はやや不満げだったが、わりと素直に縫いぐるみを受け取って苦笑した。
「ま、手作り苦手なら仕方ねぇか。」
それ以前の問題だよ馬鹿野郎。
「あのな、それ以前にボイスレコーダーとか色々変なもん仕込むなって言ってんだよ。」
「はいはい悪かったって、今回はさすがに俺も反省したわ。」
「へっ!?」
何気なくさらりと言われた一言に俺は耳を疑った、かれこれストーカーされること14日、一度も自分の非を認めたことがなかった康平が反省しただと?
ハッキリ言ってやれば人は変わるんだ……としみじみしていると、康平は自作のウサギを優しく撫でながら呟いた。
「どうせ仕込むなら朝の下駄箱じゃなく、下校中の涼太の鞄にこっそり入れておくべきだった。そしたら涼太のプライベートボイスがたっぷり録れたのに……。迂闊だった……。」
「反省する所そこかよおい。」
迂闊だった……じゃねぇよ。
やっぱりストーカーはストーカーだ、まともな思考回路なんて無い。つーか俺の話なんてこれっぽっちも聞いてなかった。
あぁ、頭が痛い……。俺は頭を抱えてうなだれた。
そもそもどうして康平はここまで執拗に俺を追い回すようになったんだっけ…。
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