そのほか
「ウォロさんも──」
ラベン博士からその名前を聞いた瞬間に、血の気が引いた。すっと頭の先から痺れていく感覚。それは恐怖なのか、憎悪なのか、そんな名前が付けられるものなのかもわからない。ただ、いつの間にか足の指の先まで冷たくなってしまいそうだった。
名前を聞いただけでこうなのだから、次に彼の姿を目にしたとき、わたしはどうなってしまうんだろう。けれど、次にラベン博士の口から出てきたのは、予想外の言葉だった。
──もう二度と、会うことはないだろう、と。けれど、ポケモン図鑑の完成は本当に楽しみにしていた、と。
ねえ、ウォロさん。余所者と、奇妙だと、信用できないと、そんな風に言われていたわたしに、突然そんなことは関係ないとでもいうように初めてのバトルを仕掛けてきた人。初対面から善意の笑顔をくれた人。ラベン博士だって、テルくんだって、初対面のその瞬間から笑顔なんてくれなかったんだよ、知ってた?それがどれだけ嬉しかったかも、だからこそどれだけあの時裏切られたと思ったかも、知らないんでしょう?
ねえ、ひどい裏切りだよ、ウォロさん。村から追放された時だって、助けてくれたのはあなただった。傍にいてくれた。助言をしてくれた。導いてくれた。ねえ、それはあなたの優しさ故にだって思ってたけど、違ったの。あの笑顔が、優しさが、全部打算で、嘘で、わたしを利用しているだけだっただなんて、そんなの。そんなのってないよ。それでいて、ごめんの一言だってなく、ただポケモン図鑑の完成を楽しみにしてたよ、だなんて。そんなの、酷すぎる。
いっそあの時わたしを殺せばよかったじゃないの。ギラティナへの、アルセウスへの供物にわたしを捧げたってよかった。わたしを殺せば、それであなたの知識欲だってすべて満たされたはずなのに。それでもあなたは、それをしなかった。そうして、永遠にわたしの前から姿を消してしまった。
もう、わからない。わからなくていいのかもしれないけれど。
けれど、ウォロさん。あなたがポケモン図鑑の完成を楽しみにしているって言ってくれたのは、それはあの暗渠のような光のない知的好奇心から?それとも、わたしの才能を信じて、わたしがそれを成し遂げることを心から祈ってくれたからなの?そんなこと、ウォロさんにしかわからない。わたしがあれこれ考えたって、結論などでない問いかけだ。
ウォロさん。ねえ、どうかもう一度会いたい。もう一度会って、そうしたらその時は顔面くらい叩いちゃうかもしれない。……わたしの低い身長じゃ、すらりと背の高いあなたの顔に手が届くかなんてわからないけど。でも、もう一度会いたいの。会って、あなたの本心がなんだったのか、わたしのことをどう思っていたのか、縛ってでも問い詰めたい。そうして、それからやっぱりウォロさんの気持ちなんてわからない自分に失望したいの。
被虐趣味だって思う?わたしも自分でそう考えておいて、何を思っているのかわからない。けれどね、どうか、どうか、ウォロさん。その暗い知的好奇心の注ぎ先は、すべて私が奪っていった。それをもっと憎んで。もっと疎んで。もっと、もっと、もっと、ねえ、そのギラついた瞳に私を写してよ。
ポケモン図鑑の完成も近い。あなたの知的好奇心は満たせるだろうか。ねえ、伝説って言われてるポケモンとも、幻って言われてるポケモンとも出会ったの。心を通わせたの。あなたには、とうていわからないだろうけど。わたしは今、あなたには絶対理解できないことをしているの。ウォロさんは、そんなわたしを笑うだろうか、憎むだろうか。あなたが考えもつかず。しようともしなかったことをしている、わたしを。
ねえ、その瞳にわたしはどう映ったの。滑稽?愚か?それとも、他の何か?ねえ、どれでもいいから──あなたの言葉で、もう一度聞かせて。そうしてそれから、憎みあいたい。
わたしのことが嫌いな、あなたが好き。
ラベン博士からその名前を聞いた瞬間に、血の気が引いた。すっと頭の先から痺れていく感覚。それは恐怖なのか、憎悪なのか、そんな名前が付けられるものなのかもわからない。ただ、いつの間にか足の指の先まで冷たくなってしまいそうだった。
名前を聞いただけでこうなのだから、次に彼の姿を目にしたとき、わたしはどうなってしまうんだろう。けれど、次にラベン博士の口から出てきたのは、予想外の言葉だった。
──もう二度と、会うことはないだろう、と。けれど、ポケモン図鑑の完成は本当に楽しみにしていた、と。
ねえ、ウォロさん。余所者と、奇妙だと、信用できないと、そんな風に言われていたわたしに、突然そんなことは関係ないとでもいうように初めてのバトルを仕掛けてきた人。初対面から善意の笑顔をくれた人。ラベン博士だって、テルくんだって、初対面のその瞬間から笑顔なんてくれなかったんだよ、知ってた?それがどれだけ嬉しかったかも、だからこそどれだけあの時裏切られたと思ったかも、知らないんでしょう?
ねえ、ひどい裏切りだよ、ウォロさん。村から追放された時だって、助けてくれたのはあなただった。傍にいてくれた。助言をしてくれた。導いてくれた。ねえ、それはあなたの優しさ故にだって思ってたけど、違ったの。あの笑顔が、優しさが、全部打算で、嘘で、わたしを利用しているだけだっただなんて、そんなの。そんなのってないよ。それでいて、ごめんの一言だってなく、ただポケモン図鑑の完成を楽しみにしてたよ、だなんて。そんなの、酷すぎる。
いっそあの時わたしを殺せばよかったじゃないの。ギラティナへの、アルセウスへの供物にわたしを捧げたってよかった。わたしを殺せば、それであなたの知識欲だってすべて満たされたはずなのに。それでもあなたは、それをしなかった。そうして、永遠にわたしの前から姿を消してしまった。
もう、わからない。わからなくていいのかもしれないけれど。
けれど、ウォロさん。あなたがポケモン図鑑の完成を楽しみにしているって言ってくれたのは、それはあの暗渠のような光のない知的好奇心から?それとも、わたしの才能を信じて、わたしがそれを成し遂げることを心から祈ってくれたからなの?そんなこと、ウォロさんにしかわからない。わたしがあれこれ考えたって、結論などでない問いかけだ。
ウォロさん。ねえ、どうかもう一度会いたい。もう一度会って、そうしたらその時は顔面くらい叩いちゃうかもしれない。……わたしの低い身長じゃ、すらりと背の高いあなたの顔に手が届くかなんてわからないけど。でも、もう一度会いたいの。会って、あなたの本心がなんだったのか、わたしのことをどう思っていたのか、縛ってでも問い詰めたい。そうして、それからやっぱりウォロさんの気持ちなんてわからない自分に失望したいの。
被虐趣味だって思う?わたしも自分でそう考えておいて、何を思っているのかわからない。けれどね、どうか、どうか、ウォロさん。その暗い知的好奇心の注ぎ先は、すべて私が奪っていった。それをもっと憎んで。もっと疎んで。もっと、もっと、もっと、ねえ、そのギラついた瞳に私を写してよ。
ポケモン図鑑の完成も近い。あなたの知的好奇心は満たせるだろうか。ねえ、伝説って言われてるポケモンとも、幻って言われてるポケモンとも出会ったの。心を通わせたの。あなたには、とうていわからないだろうけど。わたしは今、あなたには絶対理解できないことをしているの。ウォロさんは、そんなわたしを笑うだろうか、憎むだろうか。あなたが考えもつかず。しようともしなかったことをしている、わたしを。
ねえ、その瞳にわたしはどう映ったの。滑稽?愚か?それとも、他の何か?ねえ、どれでもいいから──あなたの言葉で、もう一度聞かせて。そうしてそれから、憎みあいたい。
わたしのことが嫌いな、あなたが好き。
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