ペパアオ
非常階段登る24時。夜はまだ眠ってくれそうにない。オレとアオイは二人で深夜に寮を抜け出して、屋上で天体観測をしている。
「今日は新月で、星がよく見えるんだって」
階段を登りながら、アオイは嬉しそうに言った。手には春の星座の座標を持って、二人でひっそり屋上に上がってきて、学校前のものほど長くない階段に息切れしながら、二人で空を見上げた。
新月の空、けれど消えない街灯りで少し星が見づらい夜を、オレとアオイは共有する。
「あれがプレアデス星団」
「どれだ?」
オレは星に明るくないから、アオイが指さす先にどんな形があるのかわからない。アオイは手に持ったスマホで座標を照らしながら、オレにひとつひとつ説明しては空を指さす。
昔の人間は、あれが人やらに見えたというのだから驚きだ。オレにはただの線にすら見えない。
「星が綺麗なのはわかるけど、星座ってなんか楽しいものなのか?」
「ロマンがない……」
「なくて悪かったな」
「ペパー先輩、乗り気でついてきたと思ってたけど、やっぱ興味ないの?」
「オマエが好きなものだっていうから興味はあるぜ」
「ソウデスカ……」
暗闇の中だから見えないけれど、アオイが顔を真っ赤にしていることはわかる。そんなアオイの頭を軽く撫でると、アオイはぷいとオレから顔を逸らしてしまった。まったく可愛いちゃんだ。こういうところが好きだから、オレはアオイといっしょにいる時間が好きで仕方ない。星に興味はなくとも、アオイには山ほど興味がある。
「じゃあオレが興味がありそうな話をしてくれよ」
「ええ~……難問……あ、あれはカニ。好きでしょ?」
「美味いもんな」
「そう言うと思いました」
むくれながらも、アオイは空に向かって手を伸ばすのをやめやしない。そっと指先で空に線を描いては、これは乙女、これはクマ、と小さく囁く。
「カシオペア座が見えない時期なのは残念だな」
「ああ、スター団のだろ?」
「うん。綺麗なんだ」
そう言いながら、アオイは空にかざしていた手を下ろした。星はもういいのだろうか。聞くと、アオイはこっちを見て小さく微笑む。
「ペパー先輩にはこの星たち、どんな風に見える?」
「オレにはそういう想像力はないぜ?」
「まあまあ。普通の天体観測はいつでもできるけど、ペパー先輩とこうやってオリジナル星座の話をしてみるのも面白くないかなって」
「うーん……」
難問だ。さっきアオイに難問を吹っ掛けたツケというところだろう。屋上に寝転んで空を見上げると、アオイもその隣に寝転がった。
「あー……あれ。明るい星が並んでるの、ミルクパンを横から見たみたいだな」
「ペパー先輩らしいや」
そう言いながら、アオイはけらけら笑って見せた。
「それから……あれ、フォークだな。あとあっちに包丁」
「調理器具ばっかじゃないですか」
「しょうがないだろ、あれが人やらポケモンやらに見える方がおかしいんだよ」
「言えてる」
アオイはオレが空に伸ばした手に、そっと自分の指を重ねた。それに驚いてアオイを見ると、蕩けたように笑っている。
「ペパー先輩、こうやって星をなぞって」
アオイはオレの指を導いて、空に線を描き出す。星と星を繋いでできたのは。
「おっきいハート、です」
「……そりゃ、気付かなかったぜ」
春の空に、大きなハートマークが浮かんで見えた。
そっとつなげて、二人で新しい星座を作って遊ぶ。それは戯言のような遊戯。けれど、星が描き出したハートは、空にしっかり残っている。春が来るたび、そらにはアオイとオレで描いたハートが浮かび上がるだろう。ずっと変わらない想いが夜空に残る。ずっと、ずっと、変わらない。また来年、ここであの星を一緒に追いたい。その先も、ずっと、春が来るたびに一緒に空に大きなハートを描きたい。
「「来年も」」
同じ言葉を言いかけて、オレとアオイは思わず顔を見合わせた。そうしてどちらからともなくまた笑って、夜は更けていく。
24時、非常階段の先でまた。ずっと変わらない想いが空にあり続ける限り、オレたちの心も変わらないままで、隣にいたい。繋いだ手が離れないように、空に描いた心の形に祈った。
「今日は新月で、星がよく見えるんだって」
階段を登りながら、アオイは嬉しそうに言った。手には春の星座の座標を持って、二人でひっそり屋上に上がってきて、学校前のものほど長くない階段に息切れしながら、二人で空を見上げた。
新月の空、けれど消えない街灯りで少し星が見づらい夜を、オレとアオイは共有する。
「あれがプレアデス星団」
「どれだ?」
オレは星に明るくないから、アオイが指さす先にどんな形があるのかわからない。アオイは手に持ったスマホで座標を照らしながら、オレにひとつひとつ説明しては空を指さす。
昔の人間は、あれが人やらに見えたというのだから驚きだ。オレにはただの線にすら見えない。
「星が綺麗なのはわかるけど、星座ってなんか楽しいものなのか?」
「ロマンがない……」
「なくて悪かったな」
「ペパー先輩、乗り気でついてきたと思ってたけど、やっぱ興味ないの?」
「オマエが好きなものだっていうから興味はあるぜ」
「ソウデスカ……」
暗闇の中だから見えないけれど、アオイが顔を真っ赤にしていることはわかる。そんなアオイの頭を軽く撫でると、アオイはぷいとオレから顔を逸らしてしまった。まったく可愛いちゃんだ。こういうところが好きだから、オレはアオイといっしょにいる時間が好きで仕方ない。星に興味はなくとも、アオイには山ほど興味がある。
「じゃあオレが興味がありそうな話をしてくれよ」
「ええ~……難問……あ、あれはカニ。好きでしょ?」
「美味いもんな」
「そう言うと思いました」
むくれながらも、アオイは空に向かって手を伸ばすのをやめやしない。そっと指先で空に線を描いては、これは乙女、これはクマ、と小さく囁く。
「カシオペア座が見えない時期なのは残念だな」
「ああ、スター団のだろ?」
「うん。綺麗なんだ」
そう言いながら、アオイは空にかざしていた手を下ろした。星はもういいのだろうか。聞くと、アオイはこっちを見て小さく微笑む。
「ペパー先輩にはこの星たち、どんな風に見える?」
「オレにはそういう想像力はないぜ?」
「まあまあ。普通の天体観測はいつでもできるけど、ペパー先輩とこうやってオリジナル星座の話をしてみるのも面白くないかなって」
「うーん……」
難問だ。さっきアオイに難問を吹っ掛けたツケというところだろう。屋上に寝転んで空を見上げると、アオイもその隣に寝転がった。
「あー……あれ。明るい星が並んでるの、ミルクパンを横から見たみたいだな」
「ペパー先輩らしいや」
そう言いながら、アオイはけらけら笑って見せた。
「それから……あれ、フォークだな。あとあっちに包丁」
「調理器具ばっかじゃないですか」
「しょうがないだろ、あれが人やらポケモンやらに見える方がおかしいんだよ」
「言えてる」
アオイはオレが空に伸ばした手に、そっと自分の指を重ねた。それに驚いてアオイを見ると、蕩けたように笑っている。
「ペパー先輩、こうやって星をなぞって」
アオイはオレの指を導いて、空に線を描き出す。星と星を繋いでできたのは。
「おっきいハート、です」
「……そりゃ、気付かなかったぜ」
春の空に、大きなハートマークが浮かんで見えた。
そっとつなげて、二人で新しい星座を作って遊ぶ。それは戯言のような遊戯。けれど、星が描き出したハートは、空にしっかり残っている。春が来るたび、そらにはアオイとオレで描いたハートが浮かび上がるだろう。ずっと変わらない想いが夜空に残る。ずっと、ずっと、変わらない。また来年、ここであの星を一緒に追いたい。その先も、ずっと、春が来るたびに一緒に空に大きなハートを描きたい。
「「来年も」」
同じ言葉を言いかけて、オレとアオイは思わず顔を見合わせた。そうしてどちらからともなくまた笑って、夜は更けていく。
24時、非常階段の先でまた。ずっと変わらない想いが空にあり続ける限り、オレたちの心も変わらないままで、隣にいたい。繋いだ手が離れないように、空に描いた心の形に祈った。