ムベショウ
もう少しで、きっと繋いだ手を離すときがくる。
私はムベさんのことが好きで、好きで、大好きで。だから、ムベさんと一生手を繋いで生きていたかったの。
でも、私はこの世界では異物。いつ消されてしまうかもわからない、浮いた存在。だからムベさんに告白するだなんて烏滸がましいって、思ったよ。でも。ねぇ、私、ムベさんのことが好きで仕方なくて。ムベさんが私のことを見る視線が優しいから、調子に乗って。すきです。って言葉に出してしまった。そうしたらムベさんは目を見開いて驚いていたけれど、わしもだ。って返事してくれたから、それがどうにも嬉しくって、ムベさんの胸に飛び込んで。ああ、このままずっとこうしていたいって思ったの。本当よ。どうか信じてね。
「ムベさん、好きです」
「知っておるよ」
気持ちを伝えると、ムベさんは微笑んで私の頭を優しく撫でてくれるの。ガシガシと髪をぐちゃぐちゃにされるときもあれば、こうしてそっと触れてくれることもある。でもそれの全てがムベさんなりの愛情表現だってわかってるから、私、うれしいの。
どうか、消えないで。私を消さないで。世界よ、どうか私をかき消さないで。もう少しでこの優しい手が離れて行ってしまうなんて、考えたくないよ。
その不安がムベさんに伝わってしまったのか、ムベさんはイモモチのこしらえもそこそこに、私をそっと抱きしめてくれた。骨ばっているけど、優しい体。優しい手つき。ねえ、あなたがこうやって私を抱きしめてくれている間だけ、私はこの世界で確かな存在になれる気がする。
「ムベさん」
「なんじゃ?」
「デートしたいな。一緒にどこかに出かけて。お弁当持って行ってね、二人でお日様の下でゆっくりしたいな」
我儘を言ってみるけれど、それでもムベさんは困った様子もない。私をなだめる優しい手つきは変わらない。
「でえととやらはわからぬが、そうか。始まりの浜あたりなら危険もない。弁当ならいくらでも作ってやる」
「ほんと?」
「本当じゃよ」
こうやって私の我儘を優しく受け止めてくれるムベさんのことが、やっぱりどうしようもなく大好きでたまらない。私の幼い初恋を受け止めてくれて、こうやって優しく抱きしめてくれるムベさんが、好きよ。だからいつまでもこうやって私を抱きしめて。そっと髪を撫でて。そんなわがままが永遠に続けばいいのにって、私は神様に祈ってしまうのだ。
そうして翌日、ムベさんは約束通りお弁当を持って私を迎えに来てくれて、二人で始まりの浜に並んで座った。海風は気持ちよくて、ムベさんが作ってくれたお弁当はとってもおいしい。
「美味しいです、ムベさん」
「作った甲斐がある」
そう言いながら、ムベさんは私がほっぺにくっ付けていた食べかすを指で拭ってくれる。その手つきだってとっても優しい。
ねえ、ムベさん。私、あなたといる時は世界で一番の幸せ者になった気がするの。頼りない私の存在を確かにしてくれる、あなたのことを心から必要としているの。
ねえ、たとえこれが最後の日だったとして、私、絶対後悔したくない。だからどうかムベさん、私の傍にいて。
もう少しで離れてしまうかもしれない手をぎゅっと握っていて。離さないで。ねえ、心って目に見えないね。でも、ムベさんは私が思っていることをすぐにわかってくれるから、ああ、心は目に見えなくたって、感じられるんだって信じられる。ムベさんが私を愛しいと思ってくれてることだって、わかるよ。浜辺で空が黄昏に変わっていくまでそばにいて。そんなこと口にしなくてもムベさんは私の傍にいてくれるし、ムベさんだってこういう時間を大切にしてくれているのがわかる。ムベさんの優しい愛情が雨みたいに私に降り注いで、ねえ、それに傘なんていらないね。
「ねえ、ムベさん」
「なんじゃ?」
「心から、大好きです」
「……わしも、愛しく思っておるよ」
そう言って、ムベさんは私をまた抱き寄せてくれる。唇に優しく触れてくれる。
ああ、今触れていることが私の全てならいいな。私の存在証明になってくれたらいいな。
空と海は藍より青く、私とムベさんを包み込んでくれる。ねえ、藍より青いの。神様、どうかお願い。私をこのまま永遠にムベさんの傍にいさせて。それくらい。もう元の世界に戻るなんて、絶対に考えられないくらいに、ムベさんのことが愛しいから。
怖いよ、ムベさん。私、怖いの。だからどうか、お願いよ。離さないで。ムベさんの服に縋りつくと、ムベさんはもう一度私に口づけをくれた。私の我儘はどんどん大きくなっていくの。思い出はできるだけたくさんある方がいい。腕一杯に、抱えきれないくらいに思い出が欲しい。藍より青い空の下で、ずっと私を抱きしめて。
手を離すときなんて、来ないで。そう強く祈ると、ムベさんは私の手に指を絡めてくれた。
いつだって私は最後の日が今日じゃありませんようにって、きまぐれな神様に祈ってる。どうかお願いよ、ムベさん。私が渦巻く空に落ちていく日が来ても、どうか――さよならなんて言わないでね。
私はムベさんのことが好きで、好きで、大好きで。だから、ムベさんと一生手を繋いで生きていたかったの。
でも、私はこの世界では異物。いつ消されてしまうかもわからない、浮いた存在。だからムベさんに告白するだなんて烏滸がましいって、思ったよ。でも。ねぇ、私、ムベさんのことが好きで仕方なくて。ムベさんが私のことを見る視線が優しいから、調子に乗って。すきです。って言葉に出してしまった。そうしたらムベさんは目を見開いて驚いていたけれど、わしもだ。って返事してくれたから、それがどうにも嬉しくって、ムベさんの胸に飛び込んで。ああ、このままずっとこうしていたいって思ったの。本当よ。どうか信じてね。
「ムベさん、好きです」
「知っておるよ」
気持ちを伝えると、ムベさんは微笑んで私の頭を優しく撫でてくれるの。ガシガシと髪をぐちゃぐちゃにされるときもあれば、こうしてそっと触れてくれることもある。でもそれの全てがムベさんなりの愛情表現だってわかってるから、私、うれしいの。
どうか、消えないで。私を消さないで。世界よ、どうか私をかき消さないで。もう少しでこの優しい手が離れて行ってしまうなんて、考えたくないよ。
その不安がムベさんに伝わってしまったのか、ムベさんはイモモチのこしらえもそこそこに、私をそっと抱きしめてくれた。骨ばっているけど、優しい体。優しい手つき。ねえ、あなたがこうやって私を抱きしめてくれている間だけ、私はこの世界で確かな存在になれる気がする。
「ムベさん」
「なんじゃ?」
「デートしたいな。一緒にどこかに出かけて。お弁当持って行ってね、二人でお日様の下でゆっくりしたいな」
我儘を言ってみるけれど、それでもムベさんは困った様子もない。私をなだめる優しい手つきは変わらない。
「でえととやらはわからぬが、そうか。始まりの浜あたりなら危険もない。弁当ならいくらでも作ってやる」
「ほんと?」
「本当じゃよ」
こうやって私の我儘を優しく受け止めてくれるムベさんのことが、やっぱりどうしようもなく大好きでたまらない。私の幼い初恋を受け止めてくれて、こうやって優しく抱きしめてくれるムベさんが、好きよ。だからいつまでもこうやって私を抱きしめて。そっと髪を撫でて。そんなわがままが永遠に続けばいいのにって、私は神様に祈ってしまうのだ。
そうして翌日、ムベさんは約束通りお弁当を持って私を迎えに来てくれて、二人で始まりの浜に並んで座った。海風は気持ちよくて、ムベさんが作ってくれたお弁当はとってもおいしい。
「美味しいです、ムベさん」
「作った甲斐がある」
そう言いながら、ムベさんは私がほっぺにくっ付けていた食べかすを指で拭ってくれる。その手つきだってとっても優しい。
ねえ、ムベさん。私、あなたといる時は世界で一番の幸せ者になった気がするの。頼りない私の存在を確かにしてくれる、あなたのことを心から必要としているの。
ねえ、たとえこれが最後の日だったとして、私、絶対後悔したくない。だからどうかムベさん、私の傍にいて。
もう少しで離れてしまうかもしれない手をぎゅっと握っていて。離さないで。ねえ、心って目に見えないね。でも、ムベさんは私が思っていることをすぐにわかってくれるから、ああ、心は目に見えなくたって、感じられるんだって信じられる。ムベさんが私を愛しいと思ってくれてることだって、わかるよ。浜辺で空が黄昏に変わっていくまでそばにいて。そんなこと口にしなくてもムベさんは私の傍にいてくれるし、ムベさんだってこういう時間を大切にしてくれているのがわかる。ムベさんの優しい愛情が雨みたいに私に降り注いで、ねえ、それに傘なんていらないね。
「ねえ、ムベさん」
「なんじゃ?」
「心から、大好きです」
「……わしも、愛しく思っておるよ」
そう言って、ムベさんは私をまた抱き寄せてくれる。唇に優しく触れてくれる。
ああ、今触れていることが私の全てならいいな。私の存在証明になってくれたらいいな。
空と海は藍より青く、私とムベさんを包み込んでくれる。ねえ、藍より青いの。神様、どうかお願い。私をこのまま永遠にムベさんの傍にいさせて。それくらい。もう元の世界に戻るなんて、絶対に考えられないくらいに、ムベさんのことが愛しいから。
怖いよ、ムベさん。私、怖いの。だからどうか、お願いよ。離さないで。ムベさんの服に縋りつくと、ムベさんはもう一度私に口づけをくれた。私の我儘はどんどん大きくなっていくの。思い出はできるだけたくさんある方がいい。腕一杯に、抱えきれないくらいに思い出が欲しい。藍より青い空の下で、ずっと私を抱きしめて。
手を離すときなんて、来ないで。そう強く祈ると、ムベさんは私の手に指を絡めてくれた。
いつだって私は最後の日が今日じゃありませんようにって、きまぐれな神様に祈ってる。どうかお願いよ、ムベさん。私が渦巻く空に落ちていく日が来ても、どうか――さよならなんて言わないでね。