ネズユウ
⼀と⼀、⾜したら⼆。そんなのはわかりきってるけど、ときどききみとおれを⾜したらひとつにならないかなぁ、なんて考えてみる。
⽣まれ変わったらきみになりたいし、きみに降りかかる悲しみも苦しみも孤独も、全部おれが受け⽌めたかった。それくらいきみのことが⼤好きで、⼤好きで、⼤好きで。そんな気持ちを、どうすればきみに伝えられますか。と思えば、アーティストなのだから歌で語れとでも⾔われそうだけれど、歌にするにはこの気持ちは少々汚かった。
パソコンで歌詞を打つ。アコースティックギターを抱えながら、時々右⼿でキーボードを叩いて数時間。気が付けば⽇はすっかり傾いていた。
「 ネズさん、少し休憩したらどうですか」
パソコンの横に、かちゃりと⾳を⽴ててティー カップが置かれた。スプー ンの上には⾓砂糖が⼀個。
「 ありがとうございます。今⽇はこのあたりでやめときましょうかね」
「 それがいいです。ご飯の前にお⾵呂に⼊っちゃってくださいよ」
「 はいはい……」
花柄のエプロンを⾸から下げた彼⼥の姿を、やっと⾒慣れることができた。⼀緒に暮らすようになって⼀年弱。シュー トシティのはじっこに建てた家は⽇当たりもよく、スパイクタウンのようにいつも寒かったりしない。
背中でエプロンの紐を結び直すユウリの後ろ姿も、⽇常のひとつだ。ただ、その姿に愛しさを感じるのは、⼀緒に暮らし始めた⽇から全く変わらない。
好きだ。ふと振り向いた彼⼥のアー モンド⾊の瞳が⻄⽇でオレンジ⾊に⾒えるのが好きだ。細い薬指に引っかかった銀⾊を、無意識にか撫でる⼿つきが好きだ。⾔ってしまえば、ユウリの全てが好きなのだ。
「…… ユウリ」
「 なんですか?晩ご飯なら……」
少し伸びた髪を⽿にかけながら、ユウリはこちらに向き直る。
ユウリ、どうしておれを選んでくれたんですか?そんなこと、怖くて聞けない。ただ、今⾃分が抱くべきはアコギではないと思ったので、クッションの上にアコギを放り投げて⽴ち上がった。たった数歩を⾛るように、おれはユウリに向かっていく。
ユウリ、おれは⽣まれ変わったらきみになりたいよ。きみみたいに、優しくて、強くて、うつくしい⼈になりたい。きみみたいに、たくさんの⼈に優しさを振りまいてあげられる⼈になりたい。―― 詭弁だ。本当は、きみの全てをおれが奪いたいだけだった。
「 ユウリ」
「カレーです」
「 そうじゃねーです」
伸ばした腕が、ユウリに届く。抱きすくめた体は相変わらず温かくて、柔らかくて、お⽇様の匂いがして、⿃の雛みたいだ。おれの胸くらいまでの⾼さまでしか伸びなかった⾝⻑は、抱きしめるのにちょうどいい。
「 ネズさん?」
不思議そうな声が聞こえたけれど、その数秒後には、⼩さな⼿がおれの背中を撫でた。それは、どこまでも優しくて。ああ、こんな優しさを与えてもらえるおれはどこまでも幸せ者で、彼⼥に選ばれた存在なのだと⾃覚する。
そして思うのだ。おれがユウリに⽣まれ変わったら、きみになったおれは、きっとおれのことなんて好きにならないなって。それに、きみをこうやって抱きしめることも、キスをすることも、おれがきみになったらできないことだから。
ああ、つくづく、奪うのも楽じゃない。
⽣まれ変わったらきみになりたいし、きみに降りかかる悲しみも苦しみも孤独も、全部おれが受け⽌めたかった。それくらいきみのことが⼤好きで、⼤好きで、⼤好きで。そんな気持ちを、どうすればきみに伝えられますか。と思えば、アーティストなのだから歌で語れとでも⾔われそうだけれど、歌にするにはこの気持ちは少々汚かった。
パソコンで歌詞を打つ。アコースティックギターを抱えながら、時々右⼿でキーボードを叩いて数時間。気が付けば⽇はすっかり傾いていた。
「 ネズさん、少し休憩したらどうですか」
パソコンの横に、かちゃりと⾳を⽴ててティー カップが置かれた。スプー ンの上には⾓砂糖が⼀個。
「 ありがとうございます。今⽇はこのあたりでやめときましょうかね」
「 それがいいです。ご飯の前にお⾵呂に⼊っちゃってくださいよ」
「 はいはい……」
花柄のエプロンを⾸から下げた彼⼥の姿を、やっと⾒慣れることができた。⼀緒に暮らすようになって⼀年弱。シュー トシティのはじっこに建てた家は⽇当たりもよく、スパイクタウンのようにいつも寒かったりしない。
背中でエプロンの紐を結び直すユウリの後ろ姿も、⽇常のひとつだ。ただ、その姿に愛しさを感じるのは、⼀緒に暮らし始めた⽇から全く変わらない。
好きだ。ふと振り向いた彼⼥のアー モンド⾊の瞳が⻄⽇でオレンジ⾊に⾒えるのが好きだ。細い薬指に引っかかった銀⾊を、無意識にか撫でる⼿つきが好きだ。⾔ってしまえば、ユウリの全てが好きなのだ。
「…… ユウリ」
「 なんですか?晩ご飯なら……」
少し伸びた髪を⽿にかけながら、ユウリはこちらに向き直る。
ユウリ、どうしておれを選んでくれたんですか?そんなこと、怖くて聞けない。ただ、今⾃分が抱くべきはアコギではないと思ったので、クッションの上にアコギを放り投げて⽴ち上がった。たった数歩を⾛るように、おれはユウリに向かっていく。
ユウリ、おれは⽣まれ変わったらきみになりたいよ。きみみたいに、優しくて、強くて、うつくしい⼈になりたい。きみみたいに、たくさんの⼈に優しさを振りまいてあげられる⼈になりたい。―― 詭弁だ。本当は、きみの全てをおれが奪いたいだけだった。
「 ユウリ」
「カレーです」
「 そうじゃねーです」
伸ばした腕が、ユウリに届く。抱きすくめた体は相変わらず温かくて、柔らかくて、お⽇様の匂いがして、⿃の雛みたいだ。おれの胸くらいまでの⾼さまでしか伸びなかった⾝⻑は、抱きしめるのにちょうどいい。
「 ネズさん?」
不思議そうな声が聞こえたけれど、その数秒後には、⼩さな⼿がおれの背中を撫でた。それは、どこまでも優しくて。ああ、こんな優しさを与えてもらえるおれはどこまでも幸せ者で、彼⼥に選ばれた存在なのだと⾃覚する。
そして思うのだ。おれがユウリに⽣まれ変わったら、きみになったおれは、きっとおれのことなんて好きにならないなって。それに、きみをこうやって抱きしめることも、キスをすることも、おれがきみになったらできないことだから。
ああ、つくづく、奪うのも楽じゃない。