ネズユウ
ギラギラするわ。⼆⼗四時、ネオン街。
真夜中にスパイクタウンに来ると、他の街とは違う⾊彩が⽬の前を覆う。夜景というより、誘蛾灯だ。
ギラギラ、バチバチ。⽬を焼かれてしまいそう。
タバコの煙のなかを泳いで、あたしは歩く。最初はネズさんが連れてきてくれたから、今ではすっかりあたしも常連の仲間⼊りをしたカフェへ。
チリンとドアについた鈴が鳴る。マスター に少し頭を下げてから、⼀番奥のテー ブルに座るの。数分も待たず、⽬の前に温かい紅茶が供された。
ねえネズさん。あたしにはわかるの。あなたが今、あたしを探して⾛ってること。そして、開⼝⼀番こう⾔うの。こんな真夜中に何してんですか!って。
ほら、⾜⾳がどんどん近付いてくる。⾝⻑のわりに軽い⾜⾳。ねえ、⾒えなくてもあたしにはわかるの。ほら、もう店の前にいる。
「 ユウリ!こんな真夜中に何してんですか!」
案の定。息を切らせたネズさんが、店のドアを開けて⼀番に叫んだ。何を⾔われるかはわかっていたけれど、そう⾔えば、何て返そうかは考えていなかった。
近くでキャンプしていたら意外と寒かったから。マリィに会いにきたら不在だったから。この店の紅茶が飲みたかったから。⾊々と考えてみたけれど、全部嘘だ。本当は、こうしてネズさんがあたしのところに来てくれるのを期待していたのだ。
「 ネズさんに会いたかったから」
結局本⼼を⼝にしてしまった。あたしには駆け引きを楽しむ余裕もなければ、そんな態度を取っても様になる⾊気も持ち合わせていない。
「 ネズさんに会いたいから、来ました」
素直に告⽩すると、ネズさんの⼝から漏れたため息が、紅茶にさざ波を吹かせて揺れた。でもそれが呆れのため息でないことを、あたしは知っている。顔を覆った細い指の隙間なんて、⾒なくてもわかる。⼿の下にある⽔⾊の瞳が、あたしのせいで痺れてるの。ネズさんこそ、あたしに会いたかったの。ネズさんの⽅こそ、あたしのことが好きなの。そんなこと、⾒なくったってわかる。
「…… っ、あんたって⼦は……」
諦め悪く、まだ呆れたふりをしているネズさん。⼤⼈って⼤変だ。でも、もう遅い。あなたはとっくのとうに、あたしにすっかり感電しているのだから。
ねえ、この先はあなたの家で、あったかいココアを飲みながら、明け⽅までずっと騒がしい⾺⿅話をするの。あなたが悲しい時は、あたしも泣いちゃうよ。あなたが嬉しい時は、あたしも笑う。
そうして、窓から朝⽇がさしてから、ふたりでソファで眠るの。ねえ、ネズさん。いつまでもふたりでそうしていよう。ずっと、ずっと、そうやってあたしに痺れてて。