ネズユウ
⾬上がりの空を⾒て、不意に虹がかかっていると、きみも⾒てたらいいのになぁなんて思ってしまいます。会おうと思えばいつだって会えるのに、あえて会わないことを選んだ⽇に限って空がきれいなものだから、今⽇は会わないと決めた⼼がぐらぐら揺らいで、どうしようもなくなる。
お互いのために会わない⽇があった⽅がいい、そう⾔いだしたのはおれの⽅。彼⼥と⼀緒にいる時間は何よりも愛しくて、⼤切で、胸が苦しくなるくらいに泣きたい時間だけれど、彼⼥に依存しすぎるのが怖かった。だから会わない⽇を作ろうって⾔ったのに、こんなきれいな空を⾒ているおれの隣にきみがいないのが、なんだか悔しい。きみが隣にいたら、虹がかかったことを喜ぶだろうに。それから、おれの名前を呼んでくれる。ねぇ⾒て、空がきれいですよって。
そうしたらきみに会いたくて仕⽅なくなる。虹より、きみの笑顔の⽅がずっと価値がある。ねぇ、おれの可愛いガー ルフレンド。
そんなふうに思ったらもう⽌まらないから、おれの⾜はびっくりするほど速くタクシー 乗り場に向かって⾛り出す。その途中で雰囲気のいいパティスリー ができていたから、ちょっと⼀呼吸。彼⼥が喜びそうなフルー ツいっぱいのケー キを買って、それからまた早⾜になる。呑気な空⾶ぶタクシー のおやじに「 ハロンタウンまで!」 と早⼝で。席に座ったおれはケー キの箱をばかに⼤事そうに膝に置いて。それから、まだ虹が⾒える空を眺めてる。
早く会いたい。空に虹がかかったから、きみが好きそうなケー キ屋さんができてたから……きみに、会いたくて仕⽅なかったから。きみに会ったら、きっとそんな⾔い訳じみた⾔葉も出てきそうにないけれど。そもそもハロンタウンの家に彼⼥がいるだなんて確証もないのに、勢いだけでタクシー に乗ってしまった。もしかしたら会えないかもしれない。そう思ったら少し悲しいけれど、元々会わない予定の⽇だったから仕⽅ないとあきらめて、このケー キはマリィのお腹を満たすだろう。それもまあいいかな。
不思議なことに、きみと出会ってから、何もかもが輝かしいんです。⾬が降る低い雲も、夜の⾼い空も、会える⽇も、会えない⽇も。理解はできないし答えなんかいらないけど、それくらい、きみのことが好きだから。
ナックルシティからハロンタウンはそこそこ遠いから、いつの間にか虹は消えて、⼣暮れめいたオレンジ⾊の空になってしまったけれど、きみに会いたい気持ちは変わらない。
「 お客さん、もうすぐハロンタウンに着きますよ」
「 ああ…… そうですか」
突然家まで押しかけて来たおれを、彼⼥はどう出迎えてくれるだろうか。びっくりしてそれから、怒る?それとも喜ぶ?どっちの顔も⼤好きだから、きみに会いたい⼼が逸って⽌まらない。
かごが地⾯に降りる感触、それからアー マー ガアのはばたきの⾳が⽌まったら、おれはおやじにおつりがたっぷり出るだけの⾦額を握らせて、「 釣りはいらないですから」 なんて⾔ってまた⾛る。⽥舎の舗装されていない⼟の道を⾛って、⾛って、その先にオレンジ⾊の屋根が⾒える。ユウリの家だ。庭先でスボミー に⽔をやる茶⾊い頭が⾒えるから、おれは。
「 ユウリ…… ユウリっ!」
ゆるりとこちらを向くユウリの表情は、驚きから笑顔に彩られて、⼿に持っていた緑のじょうろを捨てておれの⽅へ駆けてくるものだから、ひどく愛しくて、恋しい。
「 ネズさんっ!」
いっぱいに広がった両腕で、ユウリはおれの腰にしっかりしがみつく。胸元にある茶⾊くて丸い頭が可愛くて仕⽅ない。ああ、結局惚れた⽅が負けだから、きみを思うとなんだって幸せなことに理由も答えもいらない。
きっと左⼿に持ったケー キはぐちゃぐちゃに崩れているけれど、そんなことは些事だ。明⽇⼀緒にケー キ屋さんに⾏きませんか。そう⾔ってデー トに誘えるから、それでいい。
「 ネズさん…… うれしいけど、どうして会いに来てくれたんですか?」
不思議そうにおれを⾒上げる茶⾊い瞳。そこには情けないおれの顔が映り込んでいたから、ああ、今彼⼥の視界にはおれしかいないんだなと安⼼する。それから、それがどれだけ幸せなことか実感するから、ああ、やっぱりおれはこの世で⼀番の幸せ者だ。
もう会いたいことに理由付けをしたって仕⽅ない。虹が綺麗だったからとか、ケー キが美味しそうだったからとか、そんなのはすべて⾔い訳だ。そう、おれは、ただきみに会いたかっただけ!⼼臓の⾳がひどくうるさい。ねぇ、わかりますか。その質問に答えるとするなら―― 。
「 きみのことが、好きだからです」
そう答えると、きみは頬を⼣焼けより真っ⾚に染めるから。おれも、慣れない笑顔になっちまうってもんです。
お互いのために会わない⽇があった⽅がいい、そう⾔いだしたのはおれの⽅。彼⼥と⼀緒にいる時間は何よりも愛しくて、⼤切で、胸が苦しくなるくらいに泣きたい時間だけれど、彼⼥に依存しすぎるのが怖かった。だから会わない⽇を作ろうって⾔ったのに、こんなきれいな空を⾒ているおれの隣にきみがいないのが、なんだか悔しい。きみが隣にいたら、虹がかかったことを喜ぶだろうに。それから、おれの名前を呼んでくれる。ねぇ⾒て、空がきれいですよって。
そうしたらきみに会いたくて仕⽅なくなる。虹より、きみの笑顔の⽅がずっと価値がある。ねぇ、おれの可愛いガー ルフレンド。
そんなふうに思ったらもう⽌まらないから、おれの⾜はびっくりするほど速くタクシー 乗り場に向かって⾛り出す。その途中で雰囲気のいいパティスリー ができていたから、ちょっと⼀呼吸。彼⼥が喜びそうなフルー ツいっぱいのケー キを買って、それからまた早⾜になる。呑気な空⾶ぶタクシー のおやじに「 ハロンタウンまで!」 と早⼝で。席に座ったおれはケー キの箱をばかに⼤事そうに膝に置いて。それから、まだ虹が⾒える空を眺めてる。
早く会いたい。空に虹がかかったから、きみが好きそうなケー キ屋さんができてたから……きみに、会いたくて仕⽅なかったから。きみに会ったら、きっとそんな⾔い訳じみた⾔葉も出てきそうにないけれど。そもそもハロンタウンの家に彼⼥がいるだなんて確証もないのに、勢いだけでタクシー に乗ってしまった。もしかしたら会えないかもしれない。そう思ったら少し悲しいけれど、元々会わない予定の⽇だったから仕⽅ないとあきらめて、このケー キはマリィのお腹を満たすだろう。それもまあいいかな。
不思議なことに、きみと出会ってから、何もかもが輝かしいんです。⾬が降る低い雲も、夜の⾼い空も、会える⽇も、会えない⽇も。理解はできないし答えなんかいらないけど、それくらい、きみのことが好きだから。
ナックルシティからハロンタウンはそこそこ遠いから、いつの間にか虹は消えて、⼣暮れめいたオレンジ⾊の空になってしまったけれど、きみに会いたい気持ちは変わらない。
「 お客さん、もうすぐハロンタウンに着きますよ」
「 ああ…… そうですか」
突然家まで押しかけて来たおれを、彼⼥はどう出迎えてくれるだろうか。びっくりしてそれから、怒る?それとも喜ぶ?どっちの顔も⼤好きだから、きみに会いたい⼼が逸って⽌まらない。
かごが地⾯に降りる感触、それからアー マー ガアのはばたきの⾳が⽌まったら、おれはおやじにおつりがたっぷり出るだけの⾦額を握らせて、「 釣りはいらないですから」 なんて⾔ってまた⾛る。⽥舎の舗装されていない⼟の道を⾛って、⾛って、その先にオレンジ⾊の屋根が⾒える。ユウリの家だ。庭先でスボミー に⽔をやる茶⾊い頭が⾒えるから、おれは。
「 ユウリ…… ユウリっ!」
ゆるりとこちらを向くユウリの表情は、驚きから笑顔に彩られて、⼿に持っていた緑のじょうろを捨てておれの⽅へ駆けてくるものだから、ひどく愛しくて、恋しい。
「 ネズさんっ!」
いっぱいに広がった両腕で、ユウリはおれの腰にしっかりしがみつく。胸元にある茶⾊くて丸い頭が可愛くて仕⽅ない。ああ、結局惚れた⽅が負けだから、きみを思うとなんだって幸せなことに理由も答えもいらない。
きっと左⼿に持ったケー キはぐちゃぐちゃに崩れているけれど、そんなことは些事だ。明⽇⼀緒にケー キ屋さんに⾏きませんか。そう⾔ってデー トに誘えるから、それでいい。
「 ネズさん…… うれしいけど、どうして会いに来てくれたんですか?」
不思議そうにおれを⾒上げる茶⾊い瞳。そこには情けないおれの顔が映り込んでいたから、ああ、今彼⼥の視界にはおれしかいないんだなと安⼼する。それから、それがどれだけ幸せなことか実感するから、ああ、やっぱりおれはこの世で⼀番の幸せ者だ。
もう会いたいことに理由付けをしたって仕⽅ない。虹が綺麗だったからとか、ケー キが美味しそうだったからとか、そんなのはすべて⾔い訳だ。そう、おれは、ただきみに会いたかっただけ!⼼臓の⾳がひどくうるさい。ねぇ、わかりますか。その質問に答えるとするなら―― 。
「 きみのことが、好きだからです」
そう答えると、きみは頬を⼣焼けより真っ⾚に染めるから。おれも、慣れない笑顔になっちまうってもんです。
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