お隣さんが俺のファンだった件について
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『今日は仕事早く終わった☆しかも気の合いそうな友達と話せてラッキ~~!!!てことで仕事終わりくそ疲れた顔で宅コスw今日は最近ハマったブラウザゲーム、マッドブラッドからミントちゃん!』
「あ~~自分で書いといてなんだけど痛いな」
仕事に加えてコスプレが出来ないストレスに吹っ切れた俺は取り憑かれたようにコンシーラーでクマをぶっ潰し加工アプリでゴリゴリに顎を削った末超絶美少女になった。そして自撮りを某写真投稿兼レイヤー交流サイト──恐らく山田くんはまだ見つけてないであろう──のあまり稼働させていなかったアカウント、いわばサブ垢で投稿した。クソ痛いキャプションも添えておいた。山田くんには見つかってないと信じたい。家の中もモザイクガンガン掛けておいたから万が一があってもバレないと信じさせてくれ。
謎の緊張感に手汗が噴き出す。スマホが震えた。よく絡んでいるレイヤーさんからコメントといいねが来ていた。
『ミントちゃん推しです!!仕事終わりとは思えないめっちゃ可愛い~~!!』
『ほんと肌綺麗ですね!!かわいい~~!』
わざわざコメントしてくれるフォロワーに感謝の気持ちを込めて返信していく。これこそ俺のストレス発散方法だ。承認欲求を満たせて俺はご満悦である。
返信を打っていた最中、突然家の中にインターフォンの音が響いた。
俺は酷く動揺した。コスプレしたまま外に出るわけにもいかない──主に俺の社会的地位が危うい──ので、はーい、と返事をしてから急いで目立たない茶髪のウィッグに付け替え、カラコンを外してから鏡を見た。茶髪の、ほーんのちょっとだけ背の高めなかわいい女の子。うん感想としてはそれくらいだ。自分で言うのもアレだが可愛い。若干ガタイがいいのがたまにキズだけど。
「宅配便なんか頼んでたっけ」
俺はインターフォンのモニターを見てみた。
そして絶望した。
そこに立っていたのは……今日一日の悩みの種だった、山田一郎くんだった。
「は、」
『……お隣さん?』
「は、はーい!!ごめん今その、風呂入ってたから真っ裸なんだよねぇ!!」
『あっ、了解ですゆっくりでいいっすよ!』
「ごっめーーん助かる!」
女装で行けるだろと思った俺が馬鹿だった!!
一人暮らしの隣人の部屋から突然メイクの濃い茶髪のしかも声が低くて身長もでかいオカマ出てきたらもうビビるわ!!あっぶねモニターちゃんと見てよかった!!!
俺はとにかく急いでクレンジングして顔面を整えてからついでに風呂上がりっぽく見えるようにウイッグネットを外した頭をお湯で軽く濡らして、高校時代のジャージを着た。完璧である。……じゃない!既にインスタントラーメンにお湯を入れてから作り終えるまで位の時間が経過していた。俺は急いでドアを開ける。
「ごっっめん!!あれ、なんの用事で……?」
「結局予定どうだったか聞きに来たんすけど」
「あ~!大丈夫そうだったよ!てか何としてでもその日は空けとくから安心してくれよな」
「まじっすか!っしゃ……!」
「楽しみにしてるよ~……っぶぇっくし!!」
「あっ寒いっすよね、すいませんもう俺帰ります」
「あ~……ごめんね、その日楽しみにしてるよ」
「っす、俺も楽しみにしてます!」
もう夜中だというのに盛大なくしゃみをしてしまってお恥ずかしい限りである。しかし勘違いをした山田くんが早々に帰ってくれたので今回はグッジョブ俺。
俺はドアを閉めて、廊下の先にある衣装とメイク道具とウイッグが散乱した部屋を見つめた。部屋のドアは閉めていたし多分見られてはいないだろうと思うが。いやマジで危なかった。
「ハァ~~畜生~~」
山田くんはめっちゃいい人だ。
いい人だからこそとても申し訳なかった。
コソコソ隠れて女装して、騙すような真似をして、本当にいいのだろうか。でも山田くんにとっての俺は隣に住んでる社畜陰キャオタだろうし、それと可愛い美少女──ほぼほぼ加工で成り立つものではあるが──レイヤーが同一の存在とか嫌だろ。俺だって嫌だ。しかも山田くんが見てるであろう俺のサイト、写真投稿する時キャプションとして必ず女口調のクソ痛い文章添えてるから更に嫌だ。山田くんも嫌だろうし、いや何より俺が嫌だ。本当に嫌だ。俺、山田くんに対していつも年下だからって頼りになる先輩風吹かせちゃってんのにそんな文章書いてるネカマとか絶対バレたくない。無理。つらい。
「……どうしたもんかな」
俺は部屋の隅に佇む黒のマネキンに話しかけてみた。俺の問いかけは衣装だらけの部屋に響くだけだった。
「……お隣さん、あんな明るい茶髪じゃねえよな」
ドアを閉めて、靴を脱ぐ前に考えてみた。というかあんなに髪長くないだろ。やっぱり女のもんだよな、アレ。
俺はお隣さんのジャージの袖についていた茶色の長い髪について暫し考えていた。
別に、探ろうなんてそんな考えはないが。でも部屋着にあんな髪の毛が付いているってことは、もしかしたら。……そこまで考えて、俺は頭を振った。ただいまと告げて、ドタドタ迎えに来た二郎の頭を撫でてやった。
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