お隣さんが俺のファンだった件について
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それは突然訪れた。
今日、年に2、3回開催される同人イベントに来ていて、いつも通りコスプレをして目当てのサークルを見て、あとは場内を適当に散策して、気が向いたからコスプレイヤーが集うスペースに向かった。所謂撮影スペースであった。
カメラマンやらかわいいコスプレイヤーさんがごった返すその場所に足を踏み入れた。その辺の同作品のコスプレイヤーさんと写真を撮った。やりたいことは終わったのでとっとと撤収して帰って楽しく写真眺めてビール飲んで寝る……筈だった。
「あのっすみません!!写真いいですか!?」
「あっはい!構いませ……は?」
「ありがとうございます!!ポーズ指定って大丈夫ですかね………………あれ?あの……」
「………………アッすみません!!構いませんよ!!」
「うわ~っ嬉しいっす!あざす!!じゃあこっち寄ってもらって必殺技お願いします!……はい!3、2、1……」
「「ラブリ~~っスプラッシュ!」」
───女装した『俺』を嬉しそうにデカいカメラで撮影するお隣さん……山田一郎に、出会うまでは。
──────────
更衣室から大股で歩いて出てきたがとにかく恥ずかしくてどうにかなりそうだった。まさかご近所さんに、女装している姿を見られるだなんて!!!しかも!!女児向けアニメの!!ピンク枠のキャラクターだ!!
もうどんな気持ちで顔を見たらいいのかさっぱりわからなかった。両方で色の違うあの目を思い浮かべた。出で立ちからして不良かと思っていたけど結構優しい人だったな。まさかオタクだとは思わなかったけどな。
俺は考えた。どうやら俺の女装はバレていなかったように思われる。いやもしかしたら解ってても言いにくかったのか……?そりゃそうだよな!隣に住んでるいい年した男が女児向けアニメのキャラのコスプレしてたらビビるし言い難いよな!!ごめんな!!
俺は頭の中で嬉しそうに笑っていた山田一郎に全力の土下座をかましたい気持ちでいっぱいだった。
「……あれ!?お隣さん!?」
「へ?」
さっきから考えていたひとの声が聞こえたので驚いて反射的に後ろを向いた。そこには目を見開いて固まるご近所さん───山田一郎が立っていた。さっき手馴れたふうに構えていたでかいカメラは変わらず首にかけられていた。
「奇遇ですね~!お隣さんもこういうイベント来るんですか!?」
「あ~そうなんですよ!好きな作家さんが来てたんで寄ってみたんですけど……山田さんはカメラやってるんですか?」
「そうすね!今日も色んなレイヤーさん見れてテンション爆上がりっす!」
「いいですね~!」
……会話する限り、やはり気付いてはいないようだった。よかった。気付かれてたら近所のおばさんのアイドルである山田一郎の手によって俺は社会的に死ぬところだった──いや別に彼はそんな酷い人ではないと思うが──。
俺は安堵して衣装を詰めた馬鹿でかいリュックを背負い直した。今日持ってきたのがスーツケースだったら疑われていただろうなと思うと冷や汗が出る。リュックでよかった。俺は今朝の自分の判断を誇りに思った。
「あ、写真見ます?」
「え、いいんですか?許可とか……」
「勿論!snsの方に上げる許可貰ったやつだけです!それにお隣さんなら信用出来そうですし、特別っすよ」
「えぇ~ありがと!……山田くんこのアニメ好きなの?」
「っす、原作からファンです……!」
「うおおこの人クオリティ高いな……!」
「ですよね!あっ、でも俺的に一番好きなレイヤーさんは……
このマジカルラブリンちゃんのレイヤーさんなんですけど…」
「ウ……うん!そうか!!俺もラブリンちゃん好きだよー」
「マジすか!?やべえまさかお隣さんもラブリン推しとは……!」
俺はなんだか複雑な気持ちになった。
目の前で熱くラブリンちゃんへの熱を語り、そして俺のコスプレを褒めてくれる山田さんには感謝しかない。すげえ嬉しい。でも……なんだろう、この、なんとも言えない気持ちは…………
「俺このレイヤーさん実はずっと追っかけてたんすよ~~!でもイベントであんまり会えなくてすげえ落ち込んでたんすけど」
ごめん。それは俺が人混み苦手だからなんだ。
好きな作家さんのサークル回ってコスプレスペース覗いて即座に帰宅しちゃうからなんだ。
なんせ終盤になると更衣室の混み具合がすごいんだ。
「でも今日やっと会えたんですげえ感動して……!実際見たらマジで可愛いし俺このレイヤーさんのことはこのサイトで知ったんすけどこのアニメ好きって聞いて…………」
ありがとう。ありがとう。俺はこの人生、コスプレしてきてこんなに褒めてもらえたのは初めてだ。ありがとう。もうありがとうしか出ないよ。
「いや~感無量ってこの事っすね!」
「ソウダネ~~ウラヤマシイナ~~」
山田さん、今あなたが喋ってる相手、そのマジカルラブリンですよ。
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