山田三郎と放課後の共犯者
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どうやって帰ったのかいまいち覚えていない。
確か僕が葵に……キスした後、何も言わず目を丸くして僕を見ていたあいつにもう耐えられなくなって、ごめん、とかなんとか言って逃げた気がする。そこからは記憶がない。
気付いたら自室のベッドで寝ていて、起きて時計を見たら朝の5時で、学校行かなきゃ、なんて思って。
制服を探している最中に突然涙が出た。
はじめて気を許せると思った友達を失ったからだろうか、多分違う。でも本当の気持ちを認めたら僕は辛くて死ぬんじゃないか、とか馬鹿みたいなことを考えた。涙のあとをティッシュで乱雑に拭った。
部屋を出た時、二郎に会った。どうやら僕のことを心配しているらしく変な顔をして僕のそばに寄ってくる。
「三郎」
「……なんだよ二郎」
「おまえ……なんかされたんなら言えよ?俺が……」
「は?余計なお世話だ」
「おいっ……あいつなぁ」
別に、何もされてはいない。僕が勝手に変な気持ちを持って、勝手に舞い上がって、あいつに幻滅されて終わって、多分それだけだ。
なんでかまた涙が出てきそうになったので上を向いた。ただ一人、友達を失っただけだ。なのに何でこんな悲しいんだよ。
僕はこんな顔をいち兄に見られたくなくて朝ごはんも食べずに家を出た。そもそも喉を通る気がしなかった。
─────────
朝の教室、僕の頭の中はあいつのことでいっぱいで読んでいた文庫本の内容がさっぱり頭に入ってこなかった。あいつは今日も平然と誰かと挨拶をしたり会話をしたりしていた。もうあんな風に会話することも、僕に笑いかけてくれることもない。目の前の文字がぼやけて見えた。
たぶんこのまま授業の内容も頭に入ってこないんだろうな。それは別に構わない。でも頭からあいつの顔が離れないのは困る。もう話すこともきっとないしゲームやメッセージアプリの『友達』なんて関係も多分打ち切られる。もしかしたら僕からやめることになるのかもしれない。あいつは無駄なところで優しいから。
いつの間にかホームルームが始まっていた。横目にあいつを見ればどこか影のある表情で先生の話を聞いていた。もしかして僕のことで悩んでくれているのか。そうだよな、友達だと思ってたやつに突然あんな事されたら気持ち悪いしどうしたらいいか分からないよな。僕だってその立場ならそう思うさ。
ズボンの布をぎゅう、と握り締めた。辛くてたまらなかった。あいつがきっと僕から離れてしまうこと、それと、まだ僕が、あいつに変な期待をしていること。
それは、もしかしたら受け入れてくれるかもしれないとか、なにかの奇跡で同じような思いを抱いてるかもとかそんなくだらない妄想だった。
僕はもう考えたくなくて窓の外の青空を見ていた。憎らしいほどの快晴だった。
昼までの一通りの授業が終わってどっと教室が騒がしくなる。僕は出来る限り教室に居たくなかったけど給食があるので仕方なくそこに居た。給食を貰って席につく。合図とともに皆が食べ始めた。
喉を通る気もしなかったが頑張って口の中に入れてみた。シチューがやけに味気なく感じた。
昼休みが始まってあいつがこちらに近付いてきた。恥ずかしいが僕はそれがとても怖くて、話しかけられたらどう答えようかとかそんなことをずっと頭の中でぐるぐる考えていた。
「三郎」
「……っな、んだよ」
「あのさ」
「ごめん、僕先生に呼ばれてたから」
「はっ……?」
これはたぶん友達やめようとかそういう内容だろうと思った僕は怖くなって逃げ出した。教室を出たあとに情けなくなってため息を吐いた。そのあと、僕は図書室に行って適当に時間を潰して昼休みが終わってから戻ってきた。あいつがちら、とこちらを見たが僕は目を合わせなかった。
放課後、僕はいつも通り教室の窓辺でゲームをしていた。こうしているとあいつのことを思い出してどうも頭は回らなかったけど。
どうせ今日、あいつは来ない。
僕よりも仲の良い友達とか、もしかしたら僕が知らないだけで、彼女なんて存在も居たのかもしれない。そんなひとが居たらと思うと正直胸のあたりが痛いし涙も出そうだ。なにやってるんだろうな僕は。ほんとうに馬鹿みたいだった。
まあとにかくそんな人に僕のことを話して、いつの間にか笑い話になるんだろう。そうだ、いっそ笑えよ。僕だって自分が惨めで仕方ないんだ。
いつの間にか対戦には勝っていた。作業的に、頭に浮かぶ道筋通りに進んでいけばすぐに勝ててしまった。勝ったというのに気持ちは晴れないままだった。
「……くそ……」
どうしよう、ここに居るとあいつのことを思い出してしまって止まらない。なんで好きこのんでこんな所にいるんだろう。この場所が学校でほぼ唯一の僕の居場所だったからだ。
あぁ、あいつに彼女がいたらどんな感じだろうな、あいつは優しいからきっとよく頭を撫でてやるんだろう。遊びに行きたいと言ったらすぐに楽しそうなところを見つけて連れて行ってくれて、それで、優しくキスなんかしてくれるんじゃないか。
その相手が、僕だったらいいのに。
あのしっかりした腕で抱き締めて、耳元で囁いたりするのだろうか、僕が話をしたら笑ってくれて、相談は親身に聞いてくれて、それで、「三郎」ってあの声で僕の名前を────
吐き気を催した。
自分がそんなことを考えているのが嫌だった。あいつがそんなことする筈ないだろ、僕は、男なんだ。
なにこんな所で女々しいこと考えてんだよ、馬鹿じゃないの、ほんと、本当に………
「馬鹿……」
「は?馬鹿じゃねえし」
「え?」
耳を疑った。
もしかしたら考えすぎて幻聴が聞こえたのかもしれないと思ったけどそれも違った。横を向いたらすぐそこにあいつがいて、あの時みたいに僕のものより一回り大きいスマートフォンを持っていた。
「三郎、みーっけ」
「……あ」
にやりと口角を上げるその表情は見覚えがあって何でか涙が出そうになる。いや、まだあいつ何も言ってないだろ、なに変な期待してんだ。そんなの奇跡みたいな確率で……
「俺のこと避けてたろ」
「……避けてなんか」
「キスなんかしちゃったもんな」
「………っ!」
「なあ三郎」
「な、んだよ、あれは、別になんでも……」
「なんでもないの?」
自分で言って思ったがキスしておいてなんでもないとは一体どういうことだろう。何言ってんだ僕。
とにかくどう答えたらいいか分からなくて顔にだんだん熱が集まるのがわかった。どうしよう、こんな状況僕は知らないので戦略なんて頭にひとつも浮かんでこなかった。僕は俯いた。
「さぶろー、こっち向いて」
「なんでっ……」
期待させるようなこと言うんだ、僕はそう言おうとして顔を上げる。その時、僕の唇になにかが触れた。
葵は焦点が合わないくらい近くにいて、その細めた目がすこし、僕の心臓には悪くて。
脳は全然理解が追いつかなくてとにかくびっくりしていた。多分これは、キス、されてるんだと思う。
気付いた時には呼吸がぜんぜん出来ていなくてとにかく苦しかった。でもこいつとこんなふうに触れ合ってるのが嬉しくて。僕はもう触れた瞬間に頭の中がとろけてしまったらしく、ただその快楽を受け取るだけだった。
とにかく心臓が鳴るので、もしかしたらこのまま一生分の心拍数を使い果たして死んでしまうのではないかとか、ぶっ飛んだことを考えていた。正直それほど心臓がばくばくしていたしもう考えたくないくらいこいつのことで頭がいっぱいだった。
どうしよう、このままじゃこいつに殺されてしまう。
一瞬、唇を離されてすこし名残惜しいような気持ちになったが呼吸もしたくて、急いで酸素を取り込もうとしたら噎せた。落ち着いて、もういちど酸欠の原因であるそいつに顔を向けた、するとまたキスをされた。これは触れるだけじゃない。ドラマとかで見たやつだ。開けてしまった口に舌をねじ込まれて、口の中が変な感覚に襲われた。どうにかしようと僕の舌で葵の舌を押し出そうとしたところ、舌を絡められて、その感覚に体が震える。座っていたから良かったものの立っていたらきっと今頃腰砕けになって座り込んでいただろうなと思う。
終わった頃にはもう僕はここから立てないんじゃないかってくらい体から力が抜けてしまって、ただ呆然と目の前にある顔を眺めているだけだった。
でもだんだん頭にかかっていたもやが晴れてきて、僕は口を開く。さっきまで感覚が暴走していた唇と舌はまるで自分のモノじゃないみたいだった。
「なん……で期待させるんだよ」
「……?」
「こんなことされたら……期待、するだろ」
「なぁに言ってんださぶろー、お前チャット見てないの?」
「は?」
促されて画面を見ればアプリ内チャットに2件通知がついていた。まさか、と思って開けば目の前の
こいつから数分前に送られたメッセージで、内容、は──
『三郎』
『好きだよ』
───なにちょっとかっこいいことしてんだ。馬鹿。
僕は耐えきれなくなって、結局泣いてしまった。
なんだか悔しいんだけど、そう、僕だってあいつのことが好きなんだ。
確か僕が葵に……キスした後、何も言わず目を丸くして僕を見ていたあいつにもう耐えられなくなって、ごめん、とかなんとか言って逃げた気がする。そこからは記憶がない。
気付いたら自室のベッドで寝ていて、起きて時計を見たら朝の5時で、学校行かなきゃ、なんて思って。
制服を探している最中に突然涙が出た。
はじめて気を許せると思った友達を失ったからだろうか、多分違う。でも本当の気持ちを認めたら僕は辛くて死ぬんじゃないか、とか馬鹿みたいなことを考えた。涙のあとをティッシュで乱雑に拭った。
部屋を出た時、二郎に会った。どうやら僕のことを心配しているらしく変な顔をして僕のそばに寄ってくる。
「三郎」
「……なんだよ二郎」
「おまえ……なんかされたんなら言えよ?俺が……」
「は?余計なお世話だ」
「おいっ……あいつなぁ」
別に、何もされてはいない。僕が勝手に変な気持ちを持って、勝手に舞い上がって、あいつに幻滅されて終わって、多分それだけだ。
なんでかまた涙が出てきそうになったので上を向いた。ただ一人、友達を失っただけだ。なのに何でこんな悲しいんだよ。
僕はこんな顔をいち兄に見られたくなくて朝ごはんも食べずに家を出た。そもそも喉を通る気がしなかった。
─────────
朝の教室、僕の頭の中はあいつのことでいっぱいで読んでいた文庫本の内容がさっぱり頭に入ってこなかった。あいつは今日も平然と誰かと挨拶をしたり会話をしたりしていた。もうあんな風に会話することも、僕に笑いかけてくれることもない。目の前の文字がぼやけて見えた。
たぶんこのまま授業の内容も頭に入ってこないんだろうな。それは別に構わない。でも頭からあいつの顔が離れないのは困る。もう話すこともきっとないしゲームやメッセージアプリの『友達』なんて関係も多分打ち切られる。もしかしたら僕からやめることになるのかもしれない。あいつは無駄なところで優しいから。
いつの間にかホームルームが始まっていた。横目にあいつを見ればどこか影のある表情で先生の話を聞いていた。もしかして僕のことで悩んでくれているのか。そうだよな、友達だと思ってたやつに突然あんな事されたら気持ち悪いしどうしたらいいか分からないよな。僕だってその立場ならそう思うさ。
ズボンの布をぎゅう、と握り締めた。辛くてたまらなかった。あいつがきっと僕から離れてしまうこと、それと、まだ僕が、あいつに変な期待をしていること。
それは、もしかしたら受け入れてくれるかもしれないとか、なにかの奇跡で同じような思いを抱いてるかもとかそんなくだらない妄想だった。
僕はもう考えたくなくて窓の外の青空を見ていた。憎らしいほどの快晴だった。
昼までの一通りの授業が終わってどっと教室が騒がしくなる。僕は出来る限り教室に居たくなかったけど給食があるので仕方なくそこに居た。給食を貰って席につく。合図とともに皆が食べ始めた。
喉を通る気もしなかったが頑張って口の中に入れてみた。シチューがやけに味気なく感じた。
昼休みが始まってあいつがこちらに近付いてきた。恥ずかしいが僕はそれがとても怖くて、話しかけられたらどう答えようかとかそんなことをずっと頭の中でぐるぐる考えていた。
「三郎」
「……っな、んだよ」
「あのさ」
「ごめん、僕先生に呼ばれてたから」
「はっ……?」
これはたぶん友達やめようとかそういう内容だろうと思った僕は怖くなって逃げ出した。教室を出たあとに情けなくなってため息を吐いた。そのあと、僕は図書室に行って適当に時間を潰して昼休みが終わってから戻ってきた。あいつがちら、とこちらを見たが僕は目を合わせなかった。
放課後、僕はいつも通り教室の窓辺でゲームをしていた。こうしているとあいつのことを思い出してどうも頭は回らなかったけど。
どうせ今日、あいつは来ない。
僕よりも仲の良い友達とか、もしかしたら僕が知らないだけで、彼女なんて存在も居たのかもしれない。そんなひとが居たらと思うと正直胸のあたりが痛いし涙も出そうだ。なにやってるんだろうな僕は。ほんとうに馬鹿みたいだった。
まあとにかくそんな人に僕のことを話して、いつの間にか笑い話になるんだろう。そうだ、いっそ笑えよ。僕だって自分が惨めで仕方ないんだ。
いつの間にか対戦には勝っていた。作業的に、頭に浮かぶ道筋通りに進んでいけばすぐに勝ててしまった。勝ったというのに気持ちは晴れないままだった。
「……くそ……」
どうしよう、ここに居るとあいつのことを思い出してしまって止まらない。なんで好きこのんでこんな所にいるんだろう。この場所が学校でほぼ唯一の僕の居場所だったからだ。
あぁ、あいつに彼女がいたらどんな感じだろうな、あいつは優しいからきっとよく頭を撫でてやるんだろう。遊びに行きたいと言ったらすぐに楽しそうなところを見つけて連れて行ってくれて、それで、優しくキスなんかしてくれるんじゃないか。
その相手が、僕だったらいいのに。
あのしっかりした腕で抱き締めて、耳元で囁いたりするのだろうか、僕が話をしたら笑ってくれて、相談は親身に聞いてくれて、それで、「三郎」ってあの声で僕の名前を────
吐き気を催した。
自分がそんなことを考えているのが嫌だった。あいつがそんなことする筈ないだろ、僕は、男なんだ。
なにこんな所で女々しいこと考えてんだよ、馬鹿じゃないの、ほんと、本当に………
「馬鹿……」
「は?馬鹿じゃねえし」
「え?」
耳を疑った。
もしかしたら考えすぎて幻聴が聞こえたのかもしれないと思ったけどそれも違った。横を向いたらすぐそこにあいつがいて、あの時みたいに僕のものより一回り大きいスマートフォンを持っていた。
「三郎、みーっけ」
「……あ」
にやりと口角を上げるその表情は見覚えがあって何でか涙が出そうになる。いや、まだあいつ何も言ってないだろ、なに変な期待してんだ。そんなの奇跡みたいな確率で……
「俺のこと避けてたろ」
「……避けてなんか」
「キスなんかしちゃったもんな」
「………っ!」
「なあ三郎」
「な、んだよ、あれは、別になんでも……」
「なんでもないの?」
自分で言って思ったがキスしておいてなんでもないとは一体どういうことだろう。何言ってんだ僕。
とにかくどう答えたらいいか分からなくて顔にだんだん熱が集まるのがわかった。どうしよう、こんな状況僕は知らないので戦略なんて頭にひとつも浮かんでこなかった。僕は俯いた。
「さぶろー、こっち向いて」
「なんでっ……」
期待させるようなこと言うんだ、僕はそう言おうとして顔を上げる。その時、僕の唇になにかが触れた。
葵は焦点が合わないくらい近くにいて、その細めた目がすこし、僕の心臓には悪くて。
脳は全然理解が追いつかなくてとにかくびっくりしていた。多分これは、キス、されてるんだと思う。
気付いた時には呼吸がぜんぜん出来ていなくてとにかく苦しかった。でもこいつとこんなふうに触れ合ってるのが嬉しくて。僕はもう触れた瞬間に頭の中がとろけてしまったらしく、ただその快楽を受け取るだけだった。
とにかく心臓が鳴るので、もしかしたらこのまま一生分の心拍数を使い果たして死んでしまうのではないかとか、ぶっ飛んだことを考えていた。正直それほど心臓がばくばくしていたしもう考えたくないくらいこいつのことで頭がいっぱいだった。
どうしよう、このままじゃこいつに殺されてしまう。
一瞬、唇を離されてすこし名残惜しいような気持ちになったが呼吸もしたくて、急いで酸素を取り込もうとしたら噎せた。落ち着いて、もういちど酸欠の原因であるそいつに顔を向けた、するとまたキスをされた。これは触れるだけじゃない。ドラマとかで見たやつだ。開けてしまった口に舌をねじ込まれて、口の中が変な感覚に襲われた。どうにかしようと僕の舌で葵の舌を押し出そうとしたところ、舌を絡められて、その感覚に体が震える。座っていたから良かったものの立っていたらきっと今頃腰砕けになって座り込んでいただろうなと思う。
終わった頃にはもう僕はここから立てないんじゃないかってくらい体から力が抜けてしまって、ただ呆然と目の前にある顔を眺めているだけだった。
でもだんだん頭にかかっていたもやが晴れてきて、僕は口を開く。さっきまで感覚が暴走していた唇と舌はまるで自分のモノじゃないみたいだった。
「なん……で期待させるんだよ」
「……?」
「こんなことされたら……期待、するだろ」
「なぁに言ってんださぶろー、お前チャット見てないの?」
「は?」
促されて画面を見ればアプリ内チャットに2件通知がついていた。まさか、と思って開けば目の前の
こいつから数分前に送られたメッセージで、内容、は──
『三郎』
『好きだよ』
───なにちょっとかっこいいことしてんだ。馬鹿。
僕は耐えきれなくなって、結局泣いてしまった。
なんだか悔しいんだけど、そう、僕だってあいつのことが好きなんだ。