山田三郎と放課後の共犯者
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「え~~~~それでですね三郎くん」
「……」
「アイスとミルクレープとパンケーキなんですが」
「お前は何で順序立てずに美味しそうだと思ったら送り付けてくるわけ?」
「仕方ねえじゃん美味しそうなんだし!」
俺たちは沢山のカード……ではなくスイーツのスクリーンショットに囲まれて悶々としていた。
事の発端はまあ俺だった。三郎と一緒に行こうと思って探したスイーツの店を三つほど選んだのだがそこからが問題で、まずどこに行くかを決めていなかった。最初に提案したのはパンケーキだったので俺はそこに行くもんだと思っていたのだが三郎が「僕はミルクレープ食べたいんだけど」と言い出した。そこから行く行かないのすったもんだが始まってしまって「じゃあ間とってアイスは」「俺パンケーキ食べたい!」「そうか僕もミルクレープが食べたいよ」なんて謎の言い合いになってしまった。
「……そこまで言うならパンケーキでもいいよ」
「マジ!?やった!!」
「その代わり次行くのはミルクレープね、お前の奢り」
「いいぜ!……あっ、最後のは駄目!!」
「いいぜって言ったね?男に二言は?」
「無い!けどおまえほんと!!しばくぞ!」
そして結局三郎が一歩譲って──譲るどころか三歩ほど頂かれてしまった気もする──パンケーキの店に行くことになった。
そろそろ下校時刻が迫っていたので三郎に帰ろうと伝えて、リュックを背負って教室をあとにする。三郎も俺の後ろにとことこ付いてきた。外は薄暗くなっていた。クリームのたくさん乗ったパンケーキを想像すると今から週末が楽しみだった。
「じゃあ土曜日、駅前で集合な!」
「ん、じゃあね」
いつも大して表情の動かない三郎もなんだかちょっとそわそわしている様に見えた。やはりパンケーキは全人類共通の癒しだと悟った。
────────
炎天下、ただでさえクソ暑いのに池袋の人口密度もプラスされてもう死ぬんじゃないかって暑さの中俺は三郎を待っていた。三郎が来る前に死んだらどうしようとか考えていた。
「……おい」
「あっちぃ……」
「おい低能、こっちだって言ってるだろ」
「うお!?さ、さぶろー居たのかよ」
「人混みの中とはいえ声掛けたら普通気付くだろこのバカ」
「バカは余計だろ!!!」
どうやらこの状況でも三郎は大して汗もかいておらずむしろどこか涼しげだった。いや、多分暑いんだろうとは思うけどそんな風に感じさせないような顔をしていた。多分やたら高い顔面偏差値のせいだと思う。あんまり認めたくないけど。
暑いので早く行こうと三郎を急かす。しばらく歩いて、ふざけて三郎と肩を組もうとしたらさすがに暑くなって来たのか顔を真っ赤にした三郎が「暑いからやめろ」と言った。さっきまで涼しげに前を向いてたくせにお前わりところころ表情変わるのな、なんて感想を心の中で漏らした。
店に着いた頃、俺は汗だくだったし三郎もうなじのあたりにちょっと汗をかいていた。そういえば今日の三郎は半袖のパーカーを着ていて、制服姿だとあまり見えない腕や首がよく見えた。ただ細いと思っていた腕はわりとしっかりしてたし首には黒のチョーカーが見えた。そんなお洒落するんだな。俺は新たな発見をした。
「つ、ついた~~オアシスだなこりゃ」
「エアコンが逆に寒く感じる」
「お前大丈夫か?倒れたりしねえ?風邪ひくなよ?」
「今日はそんな運動してないから大丈夫」
「ほーん……まあいざとなったらお前背負って帰るか」
「お前僕のこと背負って帰れる?僕の身長一応170はあるけど」
「お前細いしいけるだろ」
「……見栄は張らない方がいいよ?」
「えぇ……信用してくれよ……」
駄弁りながら俺たちは店員さんに案内されて席に座る。適当なドリンクとお目当てのパンケーキを頼み、待ち時間ゲームでもしようかと俺はスマホを取り出した。三郎も同様だった。
やはり人気店らしくこの猛暑の中でもそれなりに人は多く、周りはパンケーキが有名なだけあって女性が多かった。この中で男二人って最高に浮くなと思う。
「さぶろー、対戦しよ」
「いいよ、負けた方ドリンク代奢りね」
「お前そればっかだな!!いいけど!!」
パンケーキ奢るのは流石にきつい。メニューには1200円とか書いてあったし俺の財布が秒で死ぬのは間違いなかった。
しかしながらドリンクもそれなりにする。俺は俺の一番強いデッキで挑むことにした。今回は三郎にまだ見せてない切り札があるので上手く行けば勝てるはず、と俺は思う。願望込みなところあるけどな。
画面に表示された「Gamestart」の文字、俺は強敵を前に脳をフル回転させる準備をした。
────────
「お待たせしました、イチゴとクリームのパンケーキとリコッタチーズのパンケーキです!」
「ありがとうご……おあっ!?」
「残念、読めてるよ」
「なっ……まだ教えてなかったろこのカード引いたって……」
「それはどう見てもそのカードのための布陣だろ。新カードの性能もそれを生かすデッキ構築だって僕の頭には大体入ってるんだよ。はい僕の勝ち」
「く、くそ~~~!!!悔しいけどそのセリフすげえかっこいい!!」
店員さんはパンケーキを置いてそそくさとどこかへ向かった。忙しいんだろうな、なんて思っていたらいつの間にか負けていた。しかもなんかかっこいい台詞付きで俺は敗北へと叩き落とされた。画面に表示された「Lose」の文字が俺をさらにどん底へ突き落とした。
「ほらパンケーキ丁度来たじゃん、食べなよ」
「うん……めっちゃうまそ……」
「……ん、おいしい」
「あ、うめえ」
さっきまですごく悔しかった気がするがパンケーキのふわふわな感触を楽しんでいたら忘れてしまった。つくづく気分屋だなと思う。
「三郎、それ美味い?ちょっとくれよ」
「……っは!?じ、自分ので我慢しろよ!」
「えぇ~~いいじゃん、俺のちょっとあげるよ。ほらいちご、あーん」
「なっ……お、男にそんな、きもちわる……」
「マジレスすんなよぉ……」
冗談混じりに突き出したフォークに刺したイチゴを見て三郎はどもりながら断った。もちろん罵るのも忘れないこいつの精神、むしろ尊敬する。
「じゃ~勝手にもらっちまおう、おりゃ」
「あっ……!?」
「…………美味いじゃん!?やっぱもう一口よこせ」
「食べ過ぎだよ!僕の食べるとこ無くなっちゃうだろ!」
「え~~っまだそんなに食ってねえよ!じゃあ俺の食っていいよ。ほらイチゴ嫌いじゃねえだろ?確か」
「ん……うん」
もう仕方ないので三郎の前にイチゴとパンケーキを刺したフォークをもう一度突き出す。イチゴは嫌いじゃないらしいので──いつも放課後に行くファーストフード店ではイチゴのシェイクをよく頼むのでむしろ好きなんじゃないかとも思うのだが──等価交換だ、食っちまえよと笑ってやった。
「そんな躊躇することねえって。死ぬわけじゃないし、俺もたまに友達とやるよ」
「…………っ」
三郎が突然捨てられた子犬のような顔をした。えっなになに何事?そんなに俺のパンケーキ食いたくない?ご、ごめん。
そう思った矢先三郎は俺の出したフォークにぱく、とかぶりついた。あれ、と思いつつ三郎の口からフォークを引いて自分の皿の上に戻す。
顔を上げた三郎はもういつも通りの真顔に戻っていた。
「……おいしい、これ」
「だろ?」
俺もめっちゃ美味しいと思う。この店正解だわまた来よう、なんて思いつつまたイチゴにクリームを付けて頬張った。
「えっ」
「?どした三郎」
「……なんでも」
何故か三郎は俺のフォークを凝視していた。そんなに気になるもんか?ご、ごめんな?
ちょっと悲しくなったが目の前のパンケーキは美味しそうで仕方ないので構わず食べ続けた。
いつの間にか皿にはクリームとイチゴのヘタ以外残っていなくて、三郎のパンケーキももう残り少なかった。そろそろ出るか、なんて思って財布を出す。計算したらドリンク代が案外痛くてちょっと三郎を睨んだら涼しい笑顔で返された。くそ、イケメンだなお前。
「……あり?さぶろ~もしかして寒い?」
「は?なんで」
「顔赤いし~、なんか突然寒いとこ来たから体がついていけてねーんじゃね?」
「あー……確かに、ちょっと寒いな」
「大丈夫か?俺のカーディガン着る?着てきたけど暑くて脱いだんだよ」
お前まだ食うの時間かかりそうだしちょっと着てろよ。と言いつつリュックからカーディガンを引っ張りだそうとしたらパンケーキを切り分けていた三郎が面白いくらい真っ赤な顔をばっと上げて、「大丈夫だから」と言った。強がりに聞こえなくもないが本人がそう言うなら、と思ってリュックを閉じた。
「……ごちそうさま」
「ん、もう出るか?」
「あ、ドリンク飲みきってからでもいい?」
「いーよ、待ってる」
三郎がドリンクを飲み終わって、かわいい店員さんに会計を済ませてもらって店を出た。やっぱり外は死ぬほど暑くて先程までいたオアシスは何だったんだとさえ感じる。
「あっちーな、どっか寄るとこある?」
「本が見たい」
「あ~いいぜ、寄ってこ。どこ行く?」
その後三郎の行きつけらしい本屋に行って、俺はずっと楽しみにしていたマンガの単行本を買って三郎はよく分からないけど難しそうな小説を買っていた。これで読書感想文書くとか言っていた。よく考えてんだなそういうこと。俺考えたことあんまりないな。最終日残るのはキツいとかそれぐらいだわ。俺は自分のアホさ加減を知った。
────────
「あ~~なんか久々に一日中遊んだ気がする」
「う、ん……ちょっと眠い……」
「マジか三郎道で寝たら置いてくからな」
「は?お前じゃないんだからそんなことしないよ」
「なにぃ!?俺だってそんなことしねえよ!」
学校帰りによく歩く道、俺らは今日は普段着だったのでなんか謎の違和感があったがちょっと新鮮で楽しいとも思った。コンクリートの道はもう夕焼け色だったしほんとに長く遊んでたなと思う。俺も楽しかったし心なしか三郎もいつもより楽しそうだった。
「じゃあまた明後日だな」
「うん、楽しかった。じゃあね」
「おー、今度はミルクレープだな……………
あっ!!俺絶対奢んねえから!!」
「あれ、何言ってんだろ聞こえないなぁ」
「さぶろ~~~~~!!ゆるさねえぞ!!」
どうやら俺の財布の命日は近いらしい。
──────────
僕は今日のことを思い出しながらいち兄の作った特大オムライスを頬張っていた。ちなみに卵にはケチャップで僕の名前が書かれていて崩すのが勿体ないほど嬉しかった。やっぱりいち兄は優しいし素晴らしい人だと思う。
「で、今日は楽しかったか?確かあの子と遊んで来たんだろ」
「はい、あっそうだ!駅前のパンケーキ店に行ったんだけど凄くおいしくて、今度いち兄も一緒に行きませんか?」
「へぇ~~パンケーキ?うまそーじゃん」
「二郎お前には言ってない!……そうだいち兄、そのお店、イチゴのパンケーキがとても美味しくて……」
そう、甘酸っぱいイチゴとパンケーキの味がとても絶妙で、あいつが絶賛する気持ちもわか…………あっ
「んむむっ………!!げほっ!!」
うっかり噎せてしまった。くそ、なんてタイミングで思い出してしまったんだろう!
「!?どうした三郎!水飲むか!?」
「うっ、い、いえ!!大丈夫です!!」
それもこれもあいつが等価交換とかよくわからない事言って、あ、あーん、とかそんな気持ち悪いこと言ったのが悪い。しかも僕が食べたあと平然とパンケーキ食ってたじゃないかあいつ!僕が!口をつけたフォークで!!
…………でも友達とはよくやる、とか言ってたな、そうか、あいつは誰とでもそういうことするんだな、いや別に悲しいとか思ってない。絶対。
「はあぁぁぁなんなんだよ……」
「……三郎なんか変なもん食ったんじゃ」
「はぁ!?低能に何がわかるんだよ!」
「は!?なんでキレてんだよお前!!」
「だからお前らもう夜だから喧嘩すんなっての!!」
「「はい……」」
──その後僕は夜まで悶々としていた。