山田三郎と放課後の共犯者
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「はぁぁぁ!?!?また負けた!!」
「はい、シェイク奢りね」
「いやいやいや三郎お前まじで強すぎない?俺のデッキいくらかけたと思ってんだよ」
「5000円のカードパックわざわざ買ったんでしょ?環境新しくなって今度こそお前に勝つとかRINEしてきたなあ~。それも自信満々に」
「えええい黙れ!くそ!!マック行ったらもっかいやるぞ!」
「いいよ、返り討ちにしてやるからさ」
ちくしょう!と悔しげに声を上げてリュックを背負ったコイツ……葵を内心嘲笑いつつ、家に帰ったらいち兄に葵のことを話してやろうなんて考えていた。友達が少ないことも心配していたしきっと喜んでくれるに違いない。
僕達が放課後に二人で話すようになって3週間ほど。
帰宅部のこいつも放課後の時間を持て余していたらしいので僕が教室にいると分かってからグループの仲間が帰ってからもここに残るようになった。コイツは他のカードゲーム……主にスマートフォン向けのアプリに詳しくて話のネタには困らなかった。絶対に本人に言ってやらないでおこうとは思うがこの時間が僕はわりと好きだ。
「ポテト食いてえ」
「今度はポテト賭ける?」
「おっいいな!次はカード変えてくるわ」
「変えたって無駄だと思うけどその努力はいいと思うよ」
「バカにしやがってこの野郎…」
諸部活動が終わるのは5時頃なのでそこに被らないように日が暮れる前には学校を出ることにしていた。最近コイツと話すようになってからその後もファーストフード店に入り浸ってゲームをするのが日常になっていた。
僕らは夕暮れの道の木陰をなぞるように二人で喋りながら歩いた。
「──で、アイツら給食の牛乳全部俺に押し付けやがって調子乗って一気飲みしたら腹下して俺トイレに2時間こもってさぁ」
「なっ……にそれ馬鹿かよ!」
「だよな!俺も自分でそう思う!」
「いや誇らしげに言うなよ」
「ぼくもそう思いましゅ……」
「しおらしくなるのもやめろ!!」
ばしん、と背中を叩いてやれば「いってぇ!」と大声をあげて跳ねた。ほんと、バカで間抜けなやつ。ゲームがなければ一生話すこともなかったよな。そんなことを考えて青くなっていく空を眺めて歩いて、ファーストフード店に入って1時間くらい時間を潰した。それでまた明日、とかじゃあな、とか適当に別れの挨拶をしてお互い家の方向に歩いていく。
「さぶろーー!!」
「なっ……大きい声で名前呼ばないでくれる!?恥ずかしい……」
後ろから大声で名前を呼ぶアイツに振り返れば道端を歩いていた主婦があら、と微笑ましいとでも言いたげな顔で僕の顔を見ていた。見るならアイツにしてほしいところだ。
「お前にポテト奢らせるまで諦めねえからな!!」
「ふん……やれるもんならやってみろよ、馬ぁ鹿!」
「言ってろ!明日にはお前泣いて帰ることになるからな!」
「なわけないだろ、ほらとっとと帰れよ!なんでこんなに離れて喋ってんのさ!」
「うぃ~!!また明日な!」
うん、とかじゃあね、とか適当に返してやろうと思ってやめた。返すのもなんだか癪だった。ほんと恥ずかしい。なんであんなやつと毎日律儀に一緒に帰ってるんだろう。
くそ、恥ずかしい。あいつがあんな大声で話すから笑いものになったじゃないか。
──────────
「最近ハマってたあの……カードゲームだよな、良かったじゃねえかやる相手ができて!」
「へへ……で、でもあいつすごい頭悪いんだ。ゲームは結構上手いけど今日もただでさえ人通りの多い道で大声で僕の名前呼びやがって……」
「いいじゃねえか、そんだけお前のこと好きってことだろ?」
「えっ」
好き?
……いやいやいや待て、僕は何を考えた?
好きなんてその、恋愛的にじゃないだろ普通。決まってるじゃないか、いや、まして男だしそんな会話あるわけないし。
「そう……なんですか」
「ダチ、なんだろ?」
「……」
友達、だろうか?
即答できずにいた僕を見て横から鼻で笑うような声がした。二郎だ。
「はっ、性悪なお前のことだしどうせすぐ離れてくだろ」
「なっ……この低能、そんなわけないだろ!」
「はぁ!?お前口開けばいつも低能低能って俺だって兄貴なんだぞ!」
「いつも言ってるだろ僕が兄として敬うのは……」
「あーお前らもう夜中だぞ静かにしろ!二郎!今のはお前が煽ったのが悪いぞ、三郎も挑発に乗るな!」
──────────
「ダチなんだろ?」
その言葉が頭の中でリピートされていた。
友達?まあ友達だろう。クラスメイトなわけだし友達と言ったっていいはずだ。
でも僕達が話し始めたのはつい最近だし、それに話すのなんて放課後だけだし、それに、それに……理由を並べ始めた時、なんだか突然胸が苦しくなって寝転がっていたベッドのシーツを掴む。
ピロン、と軽い音が鳴った。
「あッ!?」
唐突に静寂を割いたのはスマートフォンの通知音だった。僕は何故か慌ててしまって、少し震える指でパスワードをとことこ打っていく。
メッセージ、2件どちらもアイツからだった。ちょうど考えてた奴からメッセージが来たからか心拍数が上がる。そのままメッセージアプリを開いた。
『さぶろ~~~~~』
『こんどはここ行こうぜ、なんかパンケーキうまいんだって』
ぴろん、とまた音が鳴って蜂蜜のかかったパンケーキとマップのスクリーンショットが送られてきた。ふうん、美味しそうじゃん。
『いいよ。いつ行く?』
『僕が勝負に勝ったらこのパンケーキ奢ってよ』
『まあ僕が勝つけど』
そう返せば『鬼畜!』というメッセージと猫が涙目になって「ひどい!」と言っているやけに可愛らしいスタンプが送られてきた。男のくせに可愛いスタンプなんか使ってるの気持ち悪いよ?
「……こんど、か」
今度って、僕との次があるのか。アイツの中にも
……ならともだち、って呼んでもいいよね?
「……葵」
「んっ!?突然喋るなよびびったじゃねえか」
「僕らって友達だよね」
「えっ何?センチメンタル?さぶろ~くんさびしいんでちゅか~~」
「っるさい!茶化すな!」
「ええ……いや……うん、友達じゃねえの?なんか友達と他人の規定ラインとかある?」
「無いと思う」
「なら友達だろ?あ~~さぶろうくんどうしたんでちゅか~~顔が赤いでちゅよ~~」
「はい僕の勝ち」
「なっ……!?あっ!?お、お前卑怯だぞ!」
「勝手に反応したお前が悪いだろ」
「くっそ……財布が薄くなってくばかりだぞ最近……」
「今日は何飲もうかな~~」
「三郎てめえそろそろしばくぞ……」