山田三郎と放課後の共犯者
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いつも通りの平凡で穏やかな放課後だった。部活やら帰宅やらで同級生の声も聞こえなくなった一人きりの教室の窓辺。
グラウンドから聞こえる陸上部の掛け声やバレー部のものらしいホイッスルの音を聞き流しながら僕は鞄の中からスマートフォンを取り出した。(勿論校則で禁止されてはいるが今はどうでもいい)
スマートフォンの電源を入れて真っ先に開いたのは2ヶ月ほど前に見つけてからというもの夢中になってしまい、柄にもなく少しの課金もしてしまったアプリゲームだ。所謂カードバトル系のものでぶっ壊れ性能のカードもないし、レアリティの高いカードを持っていなくても頭脳次第でどうにでもなる最近珍しいくらいの良ゲー。
僕はいつも通り世界の誰かとバーチャルなテーブルを挟んで頭脳戦を繰り広げた。
相手は名前からして恐らく中国人。大量に高レアのカードをぶち込んでくる相手だが難しくはないはず。僕は冷静に対応していた。
──教室の外からドタドタと忙しない足音が聞こえるまでは。
「……っ」
息を飲んだ。廊下をこんな音を立てて走っているあたり恐らく生徒だろうが……とにかく見つかったら不味いのは確かだ。サボり魔の担任のおかげで人があまり来なくて穴場だと思っていたのに。
目の前の(否、恐らく海を挟んだ遠くの)相手を蔑ろにする訳にもいかず少し焦った。だがタイミングよく相手のターンが来たので取り敢えず机の引き出しにスマートフォンを隠してフェイクの文庫本を取り出そうとする。しかしもう遅かったようで忙しない足音は教室のドアの前で止まった。
がら、と音を立ててドアが開く。入ってきたのは見覚えのある……帰宅したはずの同級生の1人。
「俺のスマホ~~!!迎えに来…………あ?山田?」
「……え」
でかい声で馬鹿みたいに校則クラッシュ宣言をして入ってきた男と、現在進行形で校則を破ってゲームをしていた僕の目がかち合った。
すると何を思ったのか男──クラスの中心グループの1人で、軽い喋り方といつも貼り付けた笑顔がよく記憶に残っている、名前は確か葵──がにやりと口角を上げた。
「……お、共犯者発見」
「は?」
「お前今スマホ持ってたよな」
「……そうだけど」
「ほーほー……うんほら共犯じゃん、俺も持ってきてるからさ、うん、お互い今のは無かったことにしようぜ」
どうやらお互い無かったことにするらしい。問題は解決した様なのでなんとなく阿呆っぽい印象を受けたこいつに構ってやる暇はなかった。
「別にいいよ」
「マジ?よっしゃ!」
早く状況を把握して次の手を打とう。僕はしまいかけたスマートフォンをもう一度取り出して画面を見る。成程、そう来たか。状況を把握した僕はまた頭にいくつかの戦略を用意する。
そして手札を整理して指を動かしていると僕のものより一回り大きなスマートフォンを片手に持ったアイツが僕のそばに寄って画面をのぞき込んできた。そしてあっ、と声を上げる。
「それ、俺もやってる!洋ゲーだし人口すくねえけど面白いよな」
「──っ」
トラップカードを置こうとした手が止まった。
いや、別に、このゲームの事を話せる相手がこんな身近にいただなんて思ってなかっただけで、そう、本当に驚いただけだった。
別に嬉しいとか話したいとかそんな欲は持ってない。断じて。こんな見るからにアホで低能そうなやつと話す事なんてない。どうせ弱いし相手にならないに決まってる。僕は口を開いた。
「……ふーん、それで、何?」
しまった。咄嗟に出した声が上擦った。
それに僕としたことが無意識に突き放すような事を口走ってしまった。何だよ、もっと上手く受け流せばよかっただろ。……いや、別に突き放したってどうってことは無いじゃないか。何ちょっと後悔してるんだ。おかしいよ今日の僕。
ほら見ろ、お前のせいで微妙な手打っちゃったじゃないか。僕はいつももっと冷静に対処出来るのに……
数秒、間が空いた。
嫌われたのかもしれない。いつもの事だ。別にどうだっていい。どうだって────
「なーんだよ釣れないな、なあそれ終わったら対戦しようぜ!」
え、と本日何度目かの短い声を上げた。
反射的に顔を上げて、その顔を見た僕は思わず目を見開く。
僕の肩に手を乗せて後ろからスマートフォンの画面をのぞき込むコイツは笑ってて。それで、思ったよりも……ずっと近くにいた。
「な、いいだろ?」
そうだ。
体がやたら熱いのはこいつがこんなにちかくにいるせいだ。
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