トキシックのせいにしたい【ANST】
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下ろしたての革靴は足に馴染んでいないせいで固く歩きにくかった。急ぐとは言ったけどさすがに本校舎までの地獄のような道のりを全力ダッシュする体力はないのだ。なるべく速歩きで移動するが履きなれていないローファーのせいでかかとが痛い。さっきパニックになるあまりついてくると言い出した赤羽へ何も言えなかった。だから二人で歩いてる。
「・・・なんでついてきたの」
「だって渋沢さん俺に怯えすぎなんだもん。隣の席なんだし仲良くしよーよ」
あの人は人当たりのいい笑顔をするのが得意だ。けれど私にはとても薄っぺらく乾いたものに見える。心が窮屈で鞄の紐を握りしめる。自分の弱味を知ってる怖い人と仲良くなる方法なんて知らない。あれが公になったらどうやって生きていけばいいんだろう。
「なんか随分悲観的だよね。俺は人の秘密無闇にバラしたりしないよ」
「あんなことしておいて、よく言うよ・・・。貴方には分からない。私の気持ちなんて、誰も知らなくていい」
安心してよ。安心してよ。優しい声色の言葉が脅迫のように聞こえて吐きそうになる。分かんないよ。そんなの実際にならないと分からない。私の秘密はそんなに扱いやすいものじゃない。人によっては軽蔑されても仕方がない。皆のことは好きだ。だからこそ知られたくない。
深刻な面持ちになる私を見て赤羽は大層つまらなさそうな顔をした。こんなの異常で馬鹿なことも分かってる。私は馬鹿だ。私が浅野を殴ったのも、私がE組に落ちてきたのも、過去に過ちを犯したのも、すべて私が馬鹿だからだ。靴擦れのかかとが痛くて涙が出てくる。
二人で喋りながら歩くうちいつの間にか本校舎が見えるところまで来ていた。赤羽は最後に「俺は渋沢さんと友だちになりたいんだけど」とだけ言って本校舎の手前で私と別れてしまった。本校舎に用がある訳じゃなかったのか。私はひどく鬱っぽい気持ちで脚を引きずりながら昇降口へ歩み出していく。
校舎に踏み込むのはひどく躊躇われた。E組の私が不用意に入るのは良いように思われないだろう。だから極力人目を避けながら歩くのはまるで悪いことをしているようで心臓がへんにドキドキした。生徒会室の扉をノックもなしに開ける。空気はちょっとやそっとで改善されないほど濃く生々しく重く、寒天の中に突き落とされたような感覚が背筋を撫でていった。
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