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「渋沢さんて南小学校出身なんだっけ？」


　不幸は重ね重ねにやってくる。逃げ惑いながらも必死な今日この頃を生きている私たちに、追い討ちをかけるような形で。きっと出会うべきじゃなかったんだ。張り付いて乾いた喉からおかしな呼吸音がする。暗い場所。ちかちか点灯する画面の光とBGMがざわめいてやかましい。逃げ場も打開策も、ない。

なんとなく運の無い日ではあった。でもまさかなんとなく立ち寄ったゲームセンターで停学中の赤羽業に出会ってしまうなんて思ってなかったのだ。早く挨拶だけして解散しようよ。ばいばいって言えばそれで終わりじゃん。そんな私の心の嘆きなんか関係ないみたいに吐かれたその言葉。途端に私の目の前が濁っていく。


「あ、うん。･･･そうかも」
「なに。どーしたの。なんか歯切れ悪いね」


ずるい。貴方が私にその質問を投げ掛ける時点ですべてを知ってるんでしょ。白々しく笑う赤羽を前にどうにか平静を保つ。渚とよくつるんでいたから面識はあるけど正直苦手だ。自身がひどくぎこちない笑いかたをしていることに気づいた。彼もそれに気がついてしまったようだった。弱味なんて見せてはいけないのに。

じわじわと歩みを詰められて後ずさるうちすっかり壁に追い詰められてしまった。逃げられない。走ってもきっとすぐに追い付かれてしまう。いくら私が暗殺の訓練を始めていて相手が停学中とはいえ彼の身体能力は並じゃない。

　渚。鋭い目に射ぬかれた心が無意識にその名前を呼んだ。怖くてたまらない。この場に渚が居てくれれば、なんて思ったがそれは最も避けるべきシチュエーション。だから私一人でどうにかしなきゃ。･･･いつまでも渚と一緒に居られる訳ではないのだから。感傷でうすくくちびるを噛むとあの無駄に端正な顔が迫っていた。


「じゃあ小五の時の“アレ“覚えてる？渋沢さんたちの代でしょ。･･･その反応見る限り当事者だったんだ。ニュースにはならなかったけどPTAとかじゃ随分会議されたらしいじゃん」


俺は違う小学校だったから噂程度でしか聞いたことないけどさ。赤羽はゲームセンター内の機器にちかちかとたくさんの色で照らされていた。彼の頬にバイオレンスゲームの赤い光が差し込む。色んな音がまざりあってこの上なく不快だ。うすぐらいゲームセンター。眼前の、不愉快な赤髪の男。



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