消せない炎【狩屋マサキ】
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「本当に今夜出るの?」
「電車の都合とかがあるから」
冬の尾を引くようなうすら寒い風が二人の間を吹き抜けていく。とくにこんな夜は冷えているからななみもマサキも春にしては少し厚着だ。月明かりが頬を青白に色づけていた。夜闇に遠くから救急車のサイレンが響く。
「わざわざ着いてこなくてもいいのに。女が一人で出歩く時間でも無いんだし、帰りどうすんの」
「マサキを送ったらそのままホームでヒロトさんたちを待つよ。あの人酔うと手がつけらんないんだもの」
たとえリュウジさんが一緒でもヒロトさんをうまいこと連れて帰るのは困難でしょ。同窓会だからって際限無く飲むんだから。ななみは自分の言った"同窓会"という言葉にひどくひっかかった。今隣を歩く彼が将来同窓会に来るか分からなかったし、とうてい来るとは思えなかったのだ。
マサキは高校を卒業しておひさま園を発ち大学の寮に住む。稲妻町からは離れていて気軽に会いにいけるほどの距離ではない。野暮に物理的な距離の話をしている訳ではないが、きっとマサキはもうこの街に戻って来ない。ななみにはなんとなく分かった。
「寂しくなるね」
「抱いてあげようか」
「うわ、サイテー」
夜道に笑い声が短く響く。おひさま園の人間は基本的に孤児だ。だからという訳でもないが、マサキは人一倍人にされたことを覚えているし人にしたこともよく覚えている。ここにはそんな彼の恨みや嘆きが残されているから、それが掘り返されて眼前に突きつけられるたびマサキは心を引っ掻きまわしながら泣き腫らすのだろう。だから彼は二度として目の前には現れない。
ななみは呆然と歩き続ける。彼のメサイアになれたらどんなに良かっただろう。彼の脚の一対になりえたらどんなに多幸だっただろう。だが彼はどんな手もとりあわない。どんな手も彼にほんとうの救済を与えることなどできない……。
「マサキ」
「なに」
いつしか二人は自然と手を繋いでいた。本当は誰よりも寂しがりで愛されたいはずなのにマサキは感情を隠すのが上手い。暗がりの部屋でひとりめそめそと泣くマサキを見てななみは心がちぎれるほど切なくなったことがある。マサキは孤独を嫌うあまり、より孤独の深みへはまっていく。
だからマサキは同窓会にもこない。マサキは過去を捨て続ける。口先ばかりを言いながら一度だってここに戻るつもりはないのだろう。マサキは孤独だ。マサキは孤独のこどもだ。街灯に照らされた横顔が寂しいと叫んでいる。繋がれた手が今だけは何よりも尊い。夜は深く濃くなっていく。ななみの目に三日月が映る。
「愛されたかったね」
マサキは少しの間だけ無言だったが、やがて鼻をすすりながらうんと吐き捨てた。
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「本当に今夜出るの?」
「電車の都合とかがあるから」
冬の尾を引くようなうすら寒い風が二人の間を吹き抜けていく。とくにこんな夜は冷えているからななみもマサキも春にしては少し厚着だ。月明かりが頬を青白に色づけていた。夜闇に遠くから救急車のサイレンが響く。
「わざわざ着いてこなくてもいいのに。女が一人で出歩く時間でも無いんだし、帰りどうすんの」
「マサキを送ったらそのままホームでヒロトさんたちを待つよ。あの人酔うと手がつけらんないんだもの」
たとえリュウジさんが一緒でもヒロトさんをうまいこと連れて帰るのは困難でしょ。同窓会だからって際限無く飲むんだから。ななみは自分の言った"同窓会"という言葉にひどくひっかかった。今隣を歩く彼が将来同窓会に来るか分からなかったし、とうてい来るとは思えなかったのだ。
マサキは高校を卒業しておひさま園を発ち大学の寮に住む。稲妻町からは離れていて気軽に会いにいけるほどの距離ではない。野暮に物理的な距離の話をしている訳ではないが、きっとマサキはもうこの街に戻って来ない。ななみにはなんとなく分かった。
「寂しくなるね」
「抱いてあげようか」
「うわ、サイテー」
夜道に笑い声が短く響く。おひさま園の人間は基本的に孤児だ。だからという訳でもないが、マサキは人一倍人にされたことを覚えているし人にしたこともよく覚えている。ここにはそんな彼の恨みや嘆きが残されているから、それが掘り返されて眼前に突きつけられるたびマサキは心を引っ掻きまわしながら泣き腫らすのだろう。だから彼は二度として目の前には現れない。
ななみは呆然と歩き続ける。彼のメサイアになれたらどんなに良かっただろう。彼の脚の一対になりえたらどんなに多幸だっただろう。だが彼はどんな手もとりあわない。どんな手も彼にほんとうの救済を与えることなどできない……。
「マサキ」
「なに」
いつしか二人は自然と手を繋いでいた。本当は誰よりも寂しがりで愛されたいはずなのにマサキは感情を隠すのが上手い。暗がりの部屋でひとりめそめそと泣くマサキを見てななみは心がちぎれるほど切なくなったことがある。マサキは孤独を嫌うあまり、より孤独の深みへはまっていく。
だからマサキは同窓会にもこない。マサキは過去を捨て続ける。口先ばかりを言いながら一度だってここに戻るつもりはないのだろう。マサキは孤独だ。マサキは孤独のこどもだ。街灯に照らされた横顔が寂しいと叫んでいる。繋がれた手が今だけは何よりも尊い。夜は深く濃くなっていく。ななみの目に三日月が映る。
「愛されたかったね」
マサキは少しの間だけ無言だったが、やがて鼻をすすりながらうんと吐き捨てた。
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