愚者の聖典【ミストレーネ・カルス】
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長い髪を結べないまま鏡の前に佇む。朝はなんだか湿気を含んでいて、肌を差す空気の粒子がなまめかしい。起きるのには早すぎる時間、目が覚めた理由を探してもたった一つしか見つからない。こんな日は彼女の事を考えてしまう。
「(死んでしまいたい……)」
初めてその名前を聞いた時、運命だと思った。知り合いには居ない名前だった。初めて聞く名前だった。だけど探せばどこにでも居そうな……とにかく普通の名前。何故だか彼女に強く魅かれた。今まで満たされなかった空虚の心が、ごろごろとフルーツをいれたように重くなった。
姿を見て運命は確信になった。特別なことはひとつもなかった。……強くなる感情に、俺は彼女の為に産まれ、彼女は俺の為に産まれたのだと思った。(さすがにキザ過ぎて誰にも言わなかったけれど)
ななみは思ったより天の邪鬼で、大人しいけどよく笑う。頭もそれなりに良かった。優しい人間だった。出会ったのは運命だと疑えなかった。やがて交際が始まっても、俺達に変わったことは起きなかった。らしくないほどどうすればいいのか分からない。初心になっていた。
そしてこんなことを思うのは、ほんとうに不道徳的で、もう神にさえ赦すことの叶わない……ある種の罪のひとつでさえ思った。いつからかななみが欲しいと思うようになった。
いや、最初から思っていたはずなのに抑えが効かなくなってきていた。
物理的に拘束したい訳じゃない。そんなことしたってなんの意味も成さない……。俺は洗面台の前でうずくまった。ひどく疲れた顔の俺がそこに居る。衝撃で整髪剤やゴムが散らばってゆく。俺の心のようだった。もうなにもかもバラバラだった。
そこに俺が居たいと思う。
ななみがどんな行動をしていてもどんな時でも、どこに居ても、必ず心の中で俺を思っていてほしい。俺を求め続けてほしい。ななみの心の一部がほしいと思った。お前の魂のかたわれになりたかった。このまま死んでしまいそうだった。ななみを好きって気持ちだけで勝手に死ねそうだった。
こんなことを思うのは初めてで、恋はしても悪くないものだと思っていた。心ばかりギチギチと音を立てて固くなっていく。心の奥で重たいものが息をしている。息がしづらい。ふと目を覚ました時俺を思い出してほしい。男と話していても内心俺の事を思っていてほしい。どんな些細な事でも俺を思い浮かべてほしい。ななみが欲しくなる。奪いたくなる。
何もかもを抑えられなくなりそうになるのは、きっとこの感情が毒だからだ。それまで端正だと思っていた自分の顔も途端に醜く変貌してしまう。俺に流れる血が赤いように、どうしようもないほど馬鹿らしい毒。
「ただきみを好きな場合はどうすればいい……?」
俺はこの感情をなんて呼べば良いのか分からない。もしかしたら恋とは言えないのかもしれない。それで今でも俺は、君にその感情を打ち明かせないままだ。
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長い髪を結べないまま鏡の前に佇む。朝はなんだか湿気を含んでいて、肌を差す空気の粒子がなまめかしい。起きるのには早すぎる時間、目が覚めた理由を探してもたった一つしか見つからない。こんな日は彼女の事を考えてしまう。
「(死んでしまいたい……)」
初めてその名前を聞いた時、運命だと思った。知り合いには居ない名前だった。初めて聞く名前だった。だけど探せばどこにでも居そうな……とにかく普通の名前。何故だか彼女に強く魅かれた。今まで満たされなかった空虚の心が、ごろごろとフルーツをいれたように重くなった。
姿を見て運命は確信になった。特別なことはひとつもなかった。……強くなる感情に、俺は彼女の為に産まれ、彼女は俺の為に産まれたのだと思った。(さすがにキザ過ぎて誰にも言わなかったけれど)
ななみは思ったより天の邪鬼で、大人しいけどよく笑う。頭もそれなりに良かった。優しい人間だった。出会ったのは運命だと疑えなかった。やがて交際が始まっても、俺達に変わったことは起きなかった。らしくないほどどうすればいいのか分からない。初心になっていた。
そしてこんなことを思うのは、ほんとうに不道徳的で、もう神にさえ赦すことの叶わない……ある種の罪のひとつでさえ思った。いつからかななみが欲しいと思うようになった。
いや、最初から思っていたはずなのに抑えが効かなくなってきていた。
物理的に拘束したい訳じゃない。そんなことしたってなんの意味も成さない……。俺は洗面台の前でうずくまった。ひどく疲れた顔の俺がそこに居る。衝撃で整髪剤やゴムが散らばってゆく。俺の心のようだった。もうなにもかもバラバラだった。
そこに俺が居たいと思う。
ななみがどんな行動をしていてもどんな時でも、どこに居ても、必ず心の中で俺を思っていてほしい。俺を求め続けてほしい。ななみの心の一部がほしいと思った。お前の魂のかたわれになりたかった。このまま死んでしまいそうだった。ななみを好きって気持ちだけで勝手に死ねそうだった。
こんなことを思うのは初めてで、恋はしても悪くないものだと思っていた。心ばかりギチギチと音を立てて固くなっていく。心の奥で重たいものが息をしている。息がしづらい。ふと目を覚ました時俺を思い出してほしい。男と話していても内心俺の事を思っていてほしい。どんな些細な事でも俺を思い浮かべてほしい。ななみが欲しくなる。奪いたくなる。
何もかもを抑えられなくなりそうになるのは、きっとこの感情が毒だからだ。それまで端正だと思っていた自分の顔も途端に醜く変貌してしまう。俺に流れる血が赤いように、どうしようもないほど馬鹿らしい毒。
「ただきみを好きな場合はどうすればいい……?」
俺はこの感情をなんて呼べば良いのか分からない。もしかしたら恋とは言えないのかもしれない。それで今でも俺は、君にその感情を打ち明かせないままだ。
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