cancer【フェイ・ルーン】
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「君は誰なんだ」
サッカー棟を、ほんの少し出た辺りでフェイとななみは対峙していた。二人の間には黄金色の太陽が沈みかけている。もう他の人間はとっくに帰宅してしまった。あとに残っているのは二人だけだ。フェイの細い首は汗でじっとりとしていた。ななみは怒らない。泣かない。戸惑わない。まるでフェイがそう尋ねるのを待っていたかのように。
「分からないの?」
「……分からないよ。きみの存在は前からよく分からないけれど、どうして僕たちに協力してくれるの」
ななみはようやくちょっとだけ笑う。くすくすくす。フェイは眉を下げて困ったような、戸惑ったような顔をした。悲しそうな顔をした。何かを思い出してしまいそうだった。
「戦いにはイレギュラーが付き物だよ。あ。でも黄名子ちゃんのことは私も本当によく分からないわ」
彼女はフェイの質問に答えなかった。フェイは冷たい水のような眼差しをしてななみをわざと睨んだ。その睨みは機械的だった。彼女は拒まなかった。フェイはまるでわるい病気にかかったみたいに胸が苦しくなった。何かを思い出しそうな気がする。焼けたコンクリートの匂い。そんな匂い東京にはない筈なのに。
ななみが忌々しかった。焼けたコンクリートの匂いがする。人差し指に、引き金の跡が残っているような気がする。胸の内で重々しい何かが渦巻いている。
「フェイ」
泣いてなんかいないさ。フェイは強がった。ななみはまるで仲間のようにフェイの手の先を握った。フェイは泣きそうになってしまった。ようやくななみが誰なのか思い出せそうになる。自分はもっと、大きな組織だった気がする。胸元がぐっと喉に迫ってきた。息苦しい。生き苦しい。
フェイは呼吸を荒くしながら何歩か後ずさった。既に泣いてしまいそうな顔だった。
気づいてしまったの? ななみは尋ねた。結局は何も、気づけなかった。でもぼくは
「君を、信じたくないんだ」
フェイはめいっぱいに涙をためて小さく叫んだ。そのくせ指は強く握り返されている。心の癌にかかってしまった。なんとなくフェイはそう思った。ぼくは、ぼくのからだは、もともと悪い病気にかかっていたのだ。
なかないで。ななみは小さく呟いた。フェイは子供みたいにごしごしと涙を片手で拭って、そのうち大きく泣いてしまった。二人の風前の灯は、ゆらゆらとまたたいて凪ぐ夕に飲まれていく。
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「君は誰なんだ」
サッカー棟を、ほんの少し出た辺りでフェイとななみは対峙していた。二人の間には黄金色の太陽が沈みかけている。もう他の人間はとっくに帰宅してしまった。あとに残っているのは二人だけだ。フェイの細い首は汗でじっとりとしていた。ななみは怒らない。泣かない。戸惑わない。まるでフェイがそう尋ねるのを待っていたかのように。
「分からないの?」
「……分からないよ。きみの存在は前からよく分からないけれど、どうして僕たちに協力してくれるの」
ななみはようやくちょっとだけ笑う。くすくすくす。フェイは眉を下げて困ったような、戸惑ったような顔をした。悲しそうな顔をした。何かを思い出してしまいそうだった。
「戦いにはイレギュラーが付き物だよ。あ。でも黄名子ちゃんのことは私も本当によく分からないわ」
彼女はフェイの質問に答えなかった。フェイは冷たい水のような眼差しをしてななみをわざと睨んだ。その睨みは機械的だった。彼女は拒まなかった。フェイはまるでわるい病気にかかったみたいに胸が苦しくなった。何かを思い出しそうな気がする。焼けたコンクリートの匂い。そんな匂い東京にはない筈なのに。
ななみが忌々しかった。焼けたコンクリートの匂いがする。人差し指に、引き金の跡が残っているような気がする。胸の内で重々しい何かが渦巻いている。
「フェイ」
泣いてなんかいないさ。フェイは強がった。ななみはまるで仲間のようにフェイの手の先を握った。フェイは泣きそうになってしまった。ようやくななみが誰なのか思い出せそうになる。自分はもっと、大きな組織だった気がする。胸元がぐっと喉に迫ってきた。息苦しい。生き苦しい。
フェイは呼吸を荒くしながら何歩か後ずさった。既に泣いてしまいそうな顔だった。
気づいてしまったの? ななみは尋ねた。結局は何も、気づけなかった。でもぼくは
「君を、信じたくないんだ」
フェイはめいっぱいに涙をためて小さく叫んだ。そのくせ指は強く握り返されている。心の癌にかかってしまった。なんとなくフェイはそう思った。ぼくは、ぼくのからだは、もともと悪い病気にかかっていたのだ。
なかないで。ななみは小さく呟いた。フェイは子供みたいにごしごしと涙を片手で拭って、そのうち大きく泣いてしまった。二人の風前の灯は、ゆらゆらとまたたいて凪ぐ夕に飲まれていく。
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