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置き場

2.はじめましての話

2018/05/26 12:37
ちっちゃな兼さんのいる本丸
この本丸は、遡行軍との戦の初期に当たる、第三次期に徴集された審神者が指揮している。
本当に初期の初期だったから、その当時遡行軍の侵攻が確認された阿津賀志山まで駆け抜ける必要があった、と聞いている。

第一部隊に選ばれた刀たち以外は、碌に戦に出してもらえる時間もなく、遠征任務が主だったし、僕たちも人間の形、というものに不慣れだった。
疲労は溜まったし、勿論主さんも疲れていた。後からわかったことだったけれど、主さんは本丸に充満する神気を身体に吸収して、体調を悪くしてしまいやすい体質だったらしい。
兼さんが顕現されたのは、そんな主さんの体質と疲労も一因にあったと僕は思う。

遠征から戻ったら加州さんに大声で呼ばれて、見た目も精神年齢も幼子だった兼さんを渡された日が懐かしい。
前例もあまりなくて、本丸中が大慌てだった。

兼さんはバグとはいえど軽い方で、練度が上がれば成長して、カンストする頃には他の本丸の兼さんと変わらないくらいになることは政府と主さんの調べでわかってはいる。
でも、兼さんが重傷を負った時の主さんのトラウマやら、本丸の末っ子として可愛がられていることから、少しだけ成長した、六、七歳くらいの見た目で止まっているのが、僕らの本丸の兼さんだ。

「全員揃った? 揃ったね? じゃ、諸連絡があるから聞いて!」

昔のことに思いを馳せていると、再び加州さんの声が響く。
今度はざわめきがぱっと静かになった。

「えー、明日蜂須賀が修業から戻る予定なのはみんな知っての通りだよね? それに伴って、第一から第四部隊の編成がちょっと変わるよ」

へぇ、と呟く。今の部隊が組み直しか。
まあこういうことはたまにあるので、今更驚くことはそんなにない。

「主に、極になった、またはなる予定の打刀が多くなったのでそれに対応するためね。第一部隊は俺が正式に入るだけ。第二部隊は……全員読み上げるか」

読み上げられた名前に頷く。僕の名前もあったし、これは多分、最初の頃の第二部隊の面々が元になっている。修業にいっていない、練度上限の燭台切さんや石切丸さんの代わりに鳴狐さんや長谷部さんかな。
続いて第三部隊、第四部隊。新しく仲間になった刀剣男士が経験を積む、主さん通称育成部隊は第四部隊になったらしい。

「で、打刀総雑務部は、修業許可出るまでは俺と山姥切と歌仙が主! 南泉にも詰め込み中だから軽いやつはそっちに投げてね。俺たち全員許可でたら、出陣してない打刀がやるけどやっぱり太刀にも補佐仕事回すことにしましたー」

はい拍手ー、なんて軽いノリで告げる加州さんを尻目に太刀はざわめいた。
前に言ってたそれ、やっぱ本格始動なんだなぁと思わず苦笑いがでる。

「決定事項だから、文句はなしでーす。最初は隊長から始めるから、明日から厨番の部隊長は執務室ね。厨番は変わりに歌仙出るから」

この言葉には俺じゃん、と嘆く獅子王さんと、兼さんの顔が輝くのが見えた。
明日から歌仙さんの夕飯確定だから、喜ぶのもわかる。出陣終わりが間に合えばレシピ教わりに行こうかな。

「ってことで、あとは蜂須賀のお迎えに明日夕方主が来るよってだけ。今日の連絡お終い! じゃ、陸奥よろしく」
「おう!」

一番最後に僕らにとって最重要な連絡をさらっと告げた後、彼は上座から下がった。
代わりに立ち上がったのはこの本丸の総隊長だ。

「今日もよう頑張ったぜよ! 腹一杯食べて明日に備ええ! 乾杯!」
「「「乾杯!!」」」

その声に合わせ、沢山の声が重なり合う。
わっ、と一気に騒がしくなる大広間。

「兼さん、お皿お皿」
「ん!」

元気よく出された皿を持って、兼さんには届かない位置に盛られたお目当ての煮物を盛り付ける。
日中は出陣に遠征にと忙しい僕にとって、この時間は兼さんのお世話をするチャンス。やっぱり落ち着くんだよね、こうしてるの。

「あ、いーな兼さん。美味しそう」
「ほいしーぜ!」
「兼さん、口の中に入れたまま喋らない!」

僕とは反対側に座る浦島くんに話しかけられた兼さんをとっさに叱りつける。
ほぁい、なんて返事をした兼さんは暫くもごもごと口を動かしてからもう一度美味しいぜ! と満面の笑みで答えた。

「どれ食べてたの?」
「あれ!」
「あ、あれかぁ。手前の天ぷらの山で見えなかったや」
「浦島くん、取ろうか?」
「堀川、おねがーい」

頼まれてもう一度煮物を盛る。兼さんよりちょっと多めに、と。

「代わりにあっちのそうめん取ろうか? 兼さんもいる?」
「いる!」
「あ、じゃあお願いするね、器……」
「ここにあるぞ」

そうめん用の取り皿は、と机の上に目を滑らせば、浦島くんの更に奥に座る長曽祢さんが取ってくれる。兄ちゃんありがと、と軽くそれを受け取った浦島くんがそうめんを移してくれた。

「ありがとうございます」
「つゆ用はここだ。あー……大和守、つゆそっち言ってるか?」
「んぁ、ある、あるけど、ちょっと待って……」

長曽祢さんが声をかけたのは、浦島くんの向かいでちょうど茄子の天麩羅にかぶりついた大和守さん。はふはふと噛む彼を尻目に、横に座る兄弟……山姥切が手を伸ばしてそれを取ってくれる。

「ほら」
「ありがと、兄弟」

兼さんの器につゆを入れる。溢したりしないように少なめに。
それを待っていたように兼さんはそうめんを啜り始めた。

席順は基本的に自由だ。やっぱり気心知れた新撰組や兄弟と近い席に座ることが多いけれど、本丸中から可愛がられている兼さんは、呼ばれることと多いし、新刃さんには、ちっさな身体で兄貴面をして自分から近づくこともある。
最近の兼さんは、大般若さんや小竜さんがお気に入りで、彼らの隣が空いていたら積極的に近づいている。彼らは兼さんを先輩扱いしてくれるから嬉しいんだろう。流石は長船の刀方と舌を巻いた。

「おかわり!」

突然ぱ、と兼さんが立ち上がり、ととと、と厨へと駆け足。
おっと、と立ち上がろうとした足を止める。
ちょうど厨へ入ったあの影は御手杵さんだ。今日の厨番でもあるし、きっと手伝ってくれるだろう。

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