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Gatto che corre nel cielo notturno

「お前と会話をするなんて親父の葬式以来だな。」
「お前と会話が成立したことなんてあったか。」
 可能であれば一生関わりたくない男との再会、お互いにそう思っているのだろう。口を開けば険悪な空気を作ってしまうことは必然でしかなかった。
 ルカに呼び出されヴィンチェンツォが向かった先は、マルタ島首都バレッタの観光地だった。指定の店で店員に案内されたテーブルに着くと、そこにはカサノ家パオロがヴィンツェンツォを待ち構えていた。
 先述の挨拶とは到底呼べない会話を交して即、2人の間に長い沈黙が横たわる。
 お互い、「何故俺がこんな奴とこんな場所で同じ時を過ごさなければならないのか。」と考えているのだろう。
 店の外では観光客のはしゃいだ声がする。親子だろうか、子供が母親に何かを買ってくれとせがんでいる。よくある光景だ。
(どうせ、買って貰えず泣き出すだろうな。)
 ヴィンチェンツォは親子のすぐ先の未来を予想した。
「・・・頼みがある」
 パオロが口を開いた。しかし、彼の目線は向かいに座るヴィンツェンツォでは無く、目の前のテーブルだった。
「テーブルが願いを叶えてくれるのか。」
 ヴィンチェンツォは嫌味で返した。
 そしてまた長い沈黙を呼び戻した。



 しばらくして、パオロがようやくヴィンチェンツォの顔を見て言った。
「運んで欲しいものがある。」
 簡単過ぎる内容に、
「部下に頼め。」
 と、ヴィンチェンツォはつっけんどんな返事をした。
「カサノ家の者には頼めない。」
 と、パオロは俯く。
「俺もカサノ家だ。他を当たれ。」
 そう言うと、ヴィンツェンツォは席を立ちパオロに背を向けた。その背中に向かって、
「お前以外には頼めない!
・・・頼む。これはカサノ家全体の問題なんだ。」
 パオロはそう言うと、縋るような瞳でヴィンツェンツォを見つめた。
 外では先程の子供が泣いていた。



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